記者にも丁寧だったエメリ
会見の最後に、一人の記者がエメリを労った。
「あなたはどんな状況でも、メディア対応を拒否することなく、時に、我々が仕事の性質上辛辣な質問をぶつけても、一切感情を乱すことなく、応じてくれましたね。その姿勢は非常に立派でした」
これに対して監督は、
「私は常にみなさんの後ろにはサポーターのみなさんがいるとわかっていますから。だから敬意を表したかった。人に対して敬意をもって接するということは、私がもっとも大切にしている信条なのです」と答えた。
そして「また会いましょう」と言って締めくくった監督に、記者たちは拍手を贈ったのだが、思えば、今季はネイマールの入団で、クラブ周辺は例年どころじゃない騒がしさだった。
カバーニとのPK論争についても、聞いているこちらまで「またその話か!」とうんざりするくらい、「どちらに蹴らせるんだ?」というような同じ質問がしつこく何度も浴びせられたが、迷惑そうな表情をすることさえなく、毎回丁寧に答えていたエメリ監督の姿には頭が下がった。
彼は、質問を記者個人からと受け止めてその質問者に不快な態度で応じる、といった、指揮官や選手から時々見られるようなことは、一切しなかった。
DFトマ・ムニエも試合後、「パリのようなチームで監督をすることは容易いことじゃない。エメリ監督は常に高いプロ意識でチームを率いてくれた」とはなむけの言葉を口にしていたが、彼の選手たちとの接し方についても容易に想像がつく。
ネイマールという良い面でも悪い面でも超刺激的なスパイスがチームに振りかかかった今季、精神的に安定した(きっと影では相当な苦悩もあったと思うが)エメリ監督が指揮官だったことは、とても大きなプラス要素だったとあらためて思う。
後任には、かねてからの噂どおり、元ドルトムント監督のトマス・トゥヘル氏が就任することが、5月14日発表された。
そしてエメリ監督も、きっと来季はまたどこかのクラブを率いるだろう。
日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督の電撃解任もあり、監督業について考えることが多かった昨今、紆余曲折はありながらも最後はサポーター、クラブ、選手、メディアから大きな感謝で見送られたウナイ・エメリ監督のPSGでの2年を見届けて、あらためて監督という人生に意識を向けてみたくなった、このエンディングだった。
(取材・文:小川由紀子【フランス】)
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