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神戸移籍なるか。イニエスタの真のすごさとは? 最強バルサを支えた“魔法使い”を紐解く

text by 舩木渉 photo by Getty Images

組織の力を最大化するイニエスタの“魔法”

イニエスタ
バルセロナでの最後のシーズンは国王杯とリーグ戦の二冠を達成。新天地でもタイトル獲得の瞬間は見られるだろうか【写真:Getty Images】

 例えば、イニエスタを象徴する動きに深くて柔らかいターンがある。後ろ向きでパスを受けたところから、プレッシャーをかけてくる相手をギリギリまで引きつけた上でその逆をとり、最小限の動きでボールも自分も前に進める。

 森山直太朗は『そしてイニエスタ』という曲の中で「シャビでもなくて」「メッシでもない」と歌ったあと、バルセロナの背番号8のことを「白い小さいマタドール」と表現している。まさに荒々しく向かってくる猛牛を「マタドール(闘牛士)」のようにひらりとかわし、急所に一刺し。その針を通すような精密な一撃が、獲物を瞬時に葬る致命傷となる場合もあれば、じわじわ効いて死をもたらすこともある。

 漫画『北斗の拳』で言えば、主人公ケンシロウが「おまえはもう死んでいる…」と宣言した後、敵が「なにィ〜〜〜!?」と疑いながら、時間差で声にならない声を発して絶命する様のような。イニエスタと対峙した相手選手は、自分がやられたことがわからないうちにやられているのである。

 彼のプレーはバルセロナで培ってきた技術、戦術、思想…そういった要素によって成り立っている。爆発的なスピードも、圧倒的なパワーもない。それでも世界最高峰たり得ると証明したのがイニエスタだ。

 その場にいるだけでチームとしての質が劇的に向上する。年齢とともに無理は利かなくなってきているが、それでもイニエスタがいるバルセロナやスペイン代表と、イニエスタがいないそれらとでは、まるで違うチームになる。攻撃を加速させ、周囲の選手たちの能力を引き出す力は誰にも真似できない。

 ここ数年は確かに怪我も増え、1年間を通してフル稼働するのは難しくなった。それでも今季は開幕から気力も体力も漲っている様子で、明らかに調子が良いことは多くの識者が指摘していたところ。まだまだトップレベルで戦えるだけの意欲もある。

 グアルディオラ率いるバルセロナに憧れた日本フットボール界は、本質を捉えきれず、彼らの紡ぐ理論を完璧に真似ることはできなかった。だが、イニエスタという唯一無二の名手の動きを間近で感じることによって、革新が起こるかもしれない。そういった意味でも、アンドレス・イニエスタがJリーグ移籍を決断してくれることを期待して待ちたい。

(文:舩木渉)

【了】

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