2018年3月14日。悪夢から10ヶ月、札幌で復活のピッチへ
負傷から3日後のイタリア戦を終えた後、小川は改めて取材に応じてこんなことを話していた。
「これまで一流の選手(のキャリア)がそんなに怪我なく、順風満帆にいってきたわけではないですし、たいていの人は前十字(じん帯)だったり、半月板だったり、そういう怪我をやっていると思う。今このタイミングでよかったと思って、前向きにやれればいいかなと思います」
チームの結束は小川の負傷離脱で一層深まった印象があった。ベンチには小川のユニフォームが掲げられ、小川自身は次なる戦いに向けて切り替えようと懸命だった。それは当時の彼にとって最大とも言える目標、東京五輪があったからだ。
「東京五輪が3年後にあるから、この大会(U-20ワールドカップ)が本当に大事で、自分でも人生かけていたくらい気持ちを入れてやっていました。けど、東京五輪というもっと大きな大会があって、そこじゃなくてよかったと、なんとかポジティブに考えて、東京五輪で爆発できるように、この(リハビリの)期間を無駄にしてはいけないなと思います」
あの悪夢のような瞬間から約10ヶ月。小川はジュビロ磐田の一員として公式戦のピッチに復帰した。今年3月14日に行われたYBCルヴァンカップのグループリーグ第2節、北海道コンサドーレ札幌戦の62分から交代出場して、約30分間プレーした。
その後、4月4日のルヴァンカップのグループリーグ第3節、ヴァンフォーレ甲府戦で329日ぶりの先発出場を飾る。リーグ戦でもスタメンのチャンスを与えられた2試合を含む、6試合に出場している。今月2日の横浜F・マリノス戦後、久々に話を聞くと「もうあの着地は見たくないですね…」とつぶやいていたが、それ以上に成熟と充実を感じさせる口ぶりだった。
「あの時のことは2度と忘れないですし、それがあるから今があると思えるように。(リハビリを経て)人間的なところで多少は大きくなれたのかなと思います。いろいろな人とも出会いましたし、いろいろなものを外から見ることで、怪我のことだったり、体のことだったり、食事のことだったり、学べることが多くありました。(昨季は)自分がいない中でチームが躍進していて、思うところはありましたけど、リハビリを乗り越えたからこそ、今があると思える時が絶対に来る。そう思いながらリハビリをやっていましたね」
同じ境遇にあるサッカー選手や、他競技のアスリートとの出会いを通じて、彼は「あの時があったから今がある」と心の底から思えるだけの濃密な時間を過ごしたに違いない。きついリハビリを乗り越えて、プレーする喜びも取り戻した。
怪我を負って以来、初めて練習試合に出場した時のことを「5分でも、本当にようやくここまでこれたと思うところがあったので、すごく楽しかったのは覚えています」と小川は振り返る。とはいえシーズン開幕前のキャンプで実戦復帰を果たしてから、必ずしも順調だったわけではない。