これからもサウサンプトンで戦うために
誰もが薄々感じていたことだとは思う。プレミアリーグでバリバリやっている29歳が、中東のクラブへ行く理由はまるで見当たらなかった。だが、本人は自分の口で説明したかったに違いない。所属チームが大変な状況にある最中、ピッチ上のことにすべてを注ぎたいは時である。そういった際にこのような話が出て、迷惑極まりないと感じていたのかもしれない。
だからこそ、吉田はさらに語気を強めて、「(もしオファーがあっても)こんな重要な試合の前にそれを出す必要はないし、僕らサイドからそれを出すわけがないし。僕がそんなことは許さない。ここでの試合に集中している」と、今回のアル・ヒラルへの移籍報道を断固として否定したのである。
現在、吉田の頭の中では、チーム残留についてが最優先事項になっているに違いない。無論、時には「万が一、クラブが降格になった場合には…」という考えが、頭をよぎることはあるだろう。一般社会人が自身の努める会社が経営不振に陥った際に、身の振り方を考えたりするのと同様である。
エバートン戦で退場処分を受け、ピッチを下りてトンネルに向かう吉田は自分の額(ひたい)を何度も叩いていた。クラブの今後を占うかもしれない重要な試合でミスを犯した自分を、許せなかったからだ。過去6シーズン、サウサンプトンとともに成長してきただけに、このチームとプレミアリーグに残りたい、戦いたいという気持ちは人一番強い。
イングランド南部の港町で6年近くを過ごし、クラブではスティーブン・デービスに次ぐ2番目の古参となった(注:下部組織出身者を除く)。以前はファンからの信頼を獲得しきれていなかったが、現在では出場すると毎回のように麻也コールが起こる存在にもなった。
愛着のあるサウサンプトン、相思相愛のファンたち、そして自分のために。いまの吉田にとっては、プレミアリーグ残留こそが究極の目標だ。
(取材・文:松澤浩三【イングランド】)
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