観客からは敗者に拍手。あくまでも前向きに
さらにディ・フランチェスコ監督は、中盤を1枚削って俊敏なテクニシャンのジェンギス・ウンデルを投入し、4トップ気味に勝負をかける。しかし薄くなったはずの中盤は分断するどころか、右サイドから中央に移ったパトリック・シックが個人技でリバプールのMF陣を振り回してチャンスを創出。終盤にエル・シャーラウィが足をつって交代を余儀なくされても、代わって出場した19歳のミルコ・アントヌッチは雰囲気に呑まれず正確なプレーを披露した。最終的にローマは終了間際に2ゴールを集めた。
試合終了後、スタディオ・オリンピコに集まった8万人超の観客はチームに盛大な拍手を送った。新監督を迎え、選手補強も若手主体に切り替えたローマにとってCL準決勝進出は、本来の目標を超える結果だ。経験不足からくるミスも多いが、1試合ごとに成長し、高い攻撃力も発揮した。「リーグ戦でCL出場権を確保し、できれば来年も準決勝に戻ってきたい。私はこれで満足したくない」とディ・フランチェスコ監督は試合後の記者会見で前を見据えた。
もっとも、大会を通して急成長を遂げたのはリバプールも然りだ。「今日の試合内容は良くなかったが、今までの戦いを考えれば我われには決勝進出の資格があった。選手たちは限界を突破してここまで来た」とユルゲン・クロップ監督は会見場で胸を張っていた。ゲーゲンプレスと高速3トップの速攻が織りなす爆発力を、次はレアル・マドリー相手に試す。
ところでこの試合、いち日本人記者として気になったのはセネガル代表マネのパフォーマンスだ。ローマの選手が複数マークについても、彼の足を止められず走力で引き剥がされていた。こんなモンスターを前線に抱えるチーム相手に、日本代表の西野朗新監督はどういうプランを立てるのか。“つなぐサッカー”を志向するにしても、それが生半可なテンポと精度に終わるなら、ボールを持たされミスを待たれた挙句、高速カウンター1本で引きちぎられるという展開になりかねないが…。
(取材・文:神尾光臣【イタリア】)
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