愛が憎しみに変わる。それでも敬意は失わず
やはりサポーター同士の仲も相当悪いらしい。2015年には両クラブのサポーターが衝突して50人以上の負傷者と40人以上の逮捕者が出たというニュースもあった。「僕はパルチザン出身だけど、ツルヴェナ・ズヴェズダにも最大限の敬意を払っている」という前提で、両者の対立関係が出来上がっていく過程を教えてくれた。
「2つのクラブのサポーターは、お互いを憎しみ合っているし、対戦する度に大きな問題を起こす。時折サポーターが人生を失ってしまうような悲劇も起こる。僕らは赤ん坊の頃から、父親やきょうだい、いとこといった近しい人たちから、彼らがサポートするクラブへの愛情がどんなものかを教わる。それが根深いところで互いへの憎しみへと変わっていくんだ。普通じゃないよね。そうやって成長していくと、結果的に度を超えて攻撃的になったりする」
レッドスターとパルチザンへの人々の情熱は、トップチームにとどまらないという。マルコヴィッチは「ユースチームの試合でも、時々親たちがケンカを始めてトラブルになることもある。誰もが相手に勝ちたいと強く思っているし、もし負ければ恥だからね」と情熱の大きさを物語るエピソードも明かした。
ただ、どうやら対立ばかりではないらしい。ウーゴ・ヴィエイラはエターナル・ダービーの歴史に名を刻んだ選手でもある。以前、母国ポルトガルメディアに対し「ダービーでゴールした後、間違ってパルチザンサポーターの方向へ走っていってしまい、いろいろなものを投げつけられた」というエピソードを話していた。
それについて本人に尋ねると、「僕にとって初めてのダービーで、いつもはそこにレッドスターのサポーターがいるはずだと思ってゴールを喜びに走っていったら、間違えてしまったんだ」とミスを認めた。だが「どうやら僕が歴史上初めて、パルチザンのサポーターに謝罪した選手らしい。それから僕は彼らからリスペクトされるようになったんだ」と話して、「これを見てよ」とYouTubeを開いて1本の動画を見せてくれた。
「これはパルチザンのホームで行われたダービーの映像。レッドスターの選手たちは怖がって走ってロッカーに戻っていくよね。あ、これはバブ(ダビド・バブンスキー=横浜FMでも同僚)だ。彼も怖がっているだろう。でも、後ろから来る僕を見てほしい。何も怖くはない(パルチザンサポーターから拍手喝采を受けている)。僕は彼らからリスペクトされているから。あの一件以降、街中でパルチザンのサポーターに会っても『写真を撮って』と求められるようになったし、とてもいい関係を築けている」
憎しみと敬意の両方が複雑に絡み合った対立構造が「エターナル・ダービー」の根源にあるのかもしれない。長い歴史とともに築かれてきたライバル関係が選手たちにも染みつき、退団後も続く因縁に繋がっていくのではないだろうか。