レッドスターとパルチザン。ピッチ外に及ぶ対立の根源
では「エターナル・ダービー」が実際にどれほど重要な試合なのか。もちろん映像や記事などを見る限りとてつもない熱気を帯びた試合であることはわかるのだが、当事者たちにとってどのような意味を持つのか知りたくなった。
そこで横浜FM対湘南の取材を終えた後、ある人物に連絡を取ってみた。昨年取材中に知り合い、今でも時折近況を報告しあっているミロスラフ・マルコビッチという選手である。彼はパルチザンの下部組織出身で、母国セルビアでのプロ経験はないが、チェコなどで地道にキャリアを積み上げ、ロシア1部リーグまで上り詰めた苦労人である。
昨年12月には、自らのオフを利用してわざわざセルビアに帰国し、エターナル・ダービー観戦に足を運んだ。そんなマルコビッチに「レッドスターとパルチザンの対立関係ってどんなものなの?」と尋ねてみた。すると次のような返信が届いた。
「簡単に言えば、政治的思想の違いだと思う。これはすごく長い話になるし、国の政治なども複雑に絡み合っている。僕も全てを説明できるわけではないけど、両クラブの関係はセルビアという国の移り変わりとともに変化してきた」
レッドスターとパルチザンはほぼ同時期、第二次世界大戦の末期から終戦直後にかけて設立されたが、ルーツが異なる。その後、両クラブはバルカン半島のサッカー界における覇権を争い続け、ユーゴスラビア崩壊からセルビア・モンテネグロ、セルビアと国の移り変わりとともにクラブのあり方を少しずつ変えてきた。
レッドスターは1980年代から1990年代前半にかけて隆盛を誇り、1990/91シーズンにはUEFAチャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)を制して欧州の頂点に立ったこともある。セルビア国民の半分がレッドスターを応援しているとの統計もあるほどの超人気クラブだ。
パルチザンも国内では常に強豪であり続けた。ユーゴスラビア社会主義連邦共和国が崩壊し、国名がユーゴスラビア連邦共和国に変わった1992/93シーズンから、2016/17シーズンまでの25年間のうち、レッドスターとパルチザン以外のクラブがセルビア国内リーグを制したのは一度しかない。圧倒的な2強体制を築いているのである。
マルコヴィッチはそんな両クラブの対戦が「セルビアのサッカーファンにとって最も重要な試合」であると語る。「ダービーの日は国中がストップする。サッカーファンはみんな足を止めて試合に集中するからね(笑)。とんでもない熱狂が、あのダービーにはあるんだ」とその重要性を説明した。