ビジョンなき監督交代に翻弄された選手たち
クラブレベルでの監督交代乱発には、任期を全うできない監督を選んだ経営陣も同時に職を追われるべきだとする意見が聞かれるが、現任のサウスゲートが過去20年弱で8人目の正監督、代行を含めれば11人目の指揮官にあたるイングランド代表に関しても、代表レベルでは多すぎる交代劇を招いてきたFAも責任を問われて然るべきだ。
無論、交代の背景には上述の通り監督自身の落ち度があった。当然、成績不振の直接的な原因であるチームとしての実力不足も。世界的なプレミアリーグ人気の裏で、国産選手の平均的な技術と戦術理解が世界のトップ水準から遅れを取っていた。
遅蒔きながら、カペッロ率いるイングランドがドイツに格差を見せつけられた、2010年ドイツワールドカップでのベスト16敗退後に着手された育成からの抜本改革は、昨年からのユース代表による国際タイトル獲得で成果の第1弾が確認され始めた段階にある。
だが一方では、一握りのワールドクラスを含むイングランドの「黄金世代」が、明確なビジョンとは無縁の監督交代の中で犠牲になった感は否めない。
国際的には、デイビッド・ベッカム世代のように理解されているかもしれないが、母国民にとっての代表格はポール・スコールズ。1998年フランスワールドカップで采配を振るったホドルは、あのポール・ガスコインをメンバーから外す価値があると期待を寄せたプレーメイカーを3-4-1-2システムのトップ下に配した。
しかし、戦術派からチームを受け継いだ情熱派のキーガンは4-4-2を基本システムとし、続くエリクソン体制下では、同システムの2列目アウトサイドに回される中で、起用法に幻滅したスコールズの代表引退を見た。
そのエリクソンは、スター選手の名声に負けたと言われた。実際、杓子定規に中盤中央に並べられたスティーブン・ジェラードとフランク・ランパードは、それぞれリバプールとチェルシーで圧倒的な存在感を誇ったワールドクラスでありながら、代表でのコンビでは攻撃的な持ち味を打ち消し合い続けた。