イングランドで繰り返されてきた「茶番」
国内リーグでは、監督交代など当たり前のイングランド。今季のプレミアリーグでは開幕早々、フランク・デ・ブールが3年契約の3ヶ月目にクリスタルパレスを追われ、終盤の今年4月には、前半戦途中にウェストブロムウィッチの新監督となったアラン・パーデューが残り6試合の時点で職を解かれている。こうした一連の交代劇も、巷では予測された事態として受け止められてきた。
だが、母国代表での監督交代となると話は別。辞任と解任の別を問わず、誰もがイングランド・ファンとも言える国民を騒がせる。「ハリル解任」に揺れる日本との違いは、交代の是非を巡る論争に自虐的なユーモアの精神が見られる部分だろうか。
代表監督人事には「茶番」を意味する「ファース(farce)」という言葉が付き物になっているように、交代の衝撃はシニカルな“笑撃”に近い。
苦しい状況でも自らを笑える心の余裕は英国人気質の1つでもあるが、実際に「お笑い種」と見られても仕方ないことも事実だ。イングランドが国際大会で最後に成果らしい成果を挙げたと言えるのは、ベスト4進出を果たしたEURO1996になるが、それ以降に代表を率いた顔ぶれの中に威厳ある引き際を演じることができた監督は1人もいない。
グレン・ホドルは「前世」に関する私的な見解が命取りとなった。力不足を自覚したケビン・キーガンが退任を決めたのは、ウェンブリー・スタジアムのトイレの中。スベン・ゴラン・エリクソンは在職中にクラブへの転職に色気を出し、助監督から昇格したスティーブ・マクラーレンは、歯のホワイトニングなどイメージアップには努めたが、EURO2008予選敗退直後に「史上最悪」の声の中で身を引いた。
ファビオ・カペッロでさえ、自身がイングランドFA(サッカー協会)に三行半を突きつける前に、選手評価ソフトに絡んだ商魂と、一向に伸びない英語力などが呆れられていた。前回の国際大会で指揮を執ったロイ・ホジソンは、EURO2016のベスト16で「国辱的敗北」と叩かれたアイスランド戦がラストゲーム。
国内紙のおとり取材にはまって金銭欲に駆られたサム・アラーダイスが采配わずか1試合で離任を余儀なくされ、当初は就任に消極的だったガレス・サウスゲートが、4試合の暫定指揮を経て今夏のロシアワールドカップへとイングランド代表を導くに至っている。