苦難続きだった広島移籍1年目。恩師との再会で変わり始めた運命
満を持して挑んだ新天地で待っていたのは、予期せぬ試練だった。アンカーのポジションを任されたものの、清水エスパルスとのJ1第2節でPK、北海道コンサドーレ札幌との第4節ではオウンゴールと、ともに決勝点となる失点を献上してしまう。
柏レイソルとの第5節からはリザーブに回り、ベガルタ仙台との第8節以降は10試合連続でベンチ入りメンバーからも外れた日々を、稲垣は「すべてにおいて噛み合っていなかった」と振り返る。
「自分自身もチームにフィットしていなかったし、チームとしても悪い循環に入ってしまったので、非常に難しいシーズンになりました」
サンフレッチェも開幕直後からJ2への降格圏付近をさまよい、7月に入ると3度のJ1制覇へ導いた森保一監督(現U-21日本代表監督)が不振の責任を取る形で退任。チームOBのヤン・ヨンソン監督(現清水エスパルス監督)のもとで、稲垣はインサイドハーフとしてチャンスをつかんだ。
コンサドーレとの第28節からレイソルとの最終節まで、7試合続けて先発フル出場。ヴィッセル神戸との第32節では移籍後初ゴールとなる先制弾を決めると、FC東京との第33節の66分には決勝ゴールをマーク。サンフレッチェをJ1残留へ導いた。
ピッチから遠ざかっていた苦難の時期でも、自分自身を見失わなかった。だからこそJ1への生き残りをかけた終盤戦で、自身のストロングポイントをチームのために生かすことができた。そして、再び上昇に転じかけた流れは、城福新監督の就任とともに一気に加速していく。
「もちろん縁を感じますし、懐かしい感じもします。監督からはとにかく毎試合毎試合、自分のよさというものを忘れることなく出しながら、少しずつでもいいから課題ともしっかり向き合って、一歩一歩成長していけばいいという感じで言ってもらっています。
だからこそ結果を出し続けて、ともに喜び合いたいという思いは強いですね。自分は何を強みにしているのか、という点を忘れないようにしていきたいけど、まだまだここからだと思っています。チーム内の競争も激しいし、1試合1試合、気が抜けない状況が続いていくので」
広島の地で4シーズンぶりに再会を果たした城福監督に縁を感じながらも、絆の強さに甘えることなく稲垣は前を見据える。たとえば横浜F・マリノスとの第7節では、稲垣は今シーズンで初めてベンチに座ったまま、3‐1の逆転勝利を告げるホイッスルを聞いている。