「午後11時のパニックボタン」を押すべきだったのか
だが明確にすべきなのは、JFAが代表チームの指揮官として外国人監督を招いている理由がどこにあるのかということだ。国内のサッカーに欠けている要素を採り入れるためである。それなのに異なるアプローチが(チームやメディアやスポンサーとの)多少の軋轢を生んだからといって「午後11時」に慌ててパニックボタンを押してしまうのは、首尾一貫したプランがなく、長期的よりも短期的なゴールに集中している証拠だと言える。
ハリルホジッチ監督が期待通りの結果を出せていなかったことは否定できない。一例として、55位だった日本のFIFAランキングを引き上げることが目標だと彼自身も就任時に宣言していたが、3年が経過してチームを去る今も日本は全く同じ順位に位置している。だが、引き金を引くのにここまで待つことにはほとんど意味がない。ワールドカップに向けた準備がボスニア人指揮官のもとでどこまで進められてきたかを考えればなおさらだ。
「記者たちはもちろん、我々が相手にいかにプレッシャーをかけて攻め込み、たくさんのゴールを奪うかという話を聞きたがる。そういう話をすればおそらく、私は良い監督だと言われるだろう」
ワールドカップ本大会に向けた最近のインタビューの中で、ハリルホジッチ監督はそう話していた。欧州組の選手たちの何人かが安定した出場機会を得られていないことへの不安も口にし、「先発では出場できるがベンチには置けない選手」たちを外すことも示唆していた。
「日本代表は日本のやり方で戦う」と彼は続けた。
「日本サッカーのアイデンティティについて論じるドキュメントを準備しているところだ。各選手にそれを配布する。チームの能力や弱点に基づいて、我々がどういうサッカーをするのかを伝えるものだ。自分たちにできないサッカーをすることはできない」
「ボールを持っている時、持っていない時に何をするかを決めなければならない。セットプレーも、守備も攻撃も、全てに関してだ。メンタル面もフィジカル面も。過去3年間の私の観察に基づいて、各選手に数ページのドキュメントを準備する。どういう戦術を採るのか、選手たちは極めて明確に理解できるはずだ。だが、それをピッチ上で実行に移せるかどうかはまた別だ。準備と実行は別問題だ」
そのドキュメントが作成されることはなくなった。ハリルホジッチ監督が描いていた戦いを日本代表が実行できていたかどうかも永遠に分からない。ワールドカップ本大会を10週間後に控え、チームの準備は一から再スタートさせなければならない。
(取材・文:ショーン・キャロル)
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