選手の才能を引き出す指揮官の英断
そして、直後にキックオフされた鹿島アントラーズとの明治安田生命J1リーグ第6節は、指揮官が貫く育成主義によって輝きを増した選手たちが躍動した一戦でもあった。
まずは開始5分に挙げた先制点。公式記録上ではオウンゴールだが、アントラーズのDF犬飼智也のクリアミスを誘発したのは、MF岡本拓也の鋭いクロスだった。右サイドを駆け上がり、GKクォン・スンテが飛び出せない絶妙の位置へ、低空の高速クロスを供給した。
浦和レッズから期限付き移籍で加入して3年目の岡本は、もともと最終ラインの選手だった。1対1には自信を持つものの、ビルドアップの役割を託されるとストレスを感じる。それでもチョウ監督は「そこまでお前は下手じゃない、できるんだ」と言い聞かせ続け、昨夏からは右アウトサイドを任せるようになった。
岡本を1列上げた理由を問われたチョウ監督は、将来を見据えたうえでのコンバートだと明かしてくれた。
「あのポジションができるようになれば、後ろに下がってビルドアップするときも余裕などが違ってくる。以前は目の前の相手を潰すことが目的で、試合に勝つことがその次みたいなところがあったけど、いまはプレーが整理されてきたし、そのなかで持ち前の1対1の強さが生きるようになった」
後半開始と同時に、市立船橋高校から加入して2年目の杉岡大暉を、チョウ監督は左アウトサイドからボランチに配置転換した。ボランチで先発していた菊地俊介がちょっとした故障を抱えたための緊急措置だったが、ハーフタイムに変更を告げられた杉岡は一度拒否している。
ボランチの位置でプレーするのは、FC東京U-15深川以来となる。練習の積み重ねで自信を構築するタイプだけに、文字通りのぶっつけ本番にちょっとだけ怯んだ。
「俺の責任だからやれ!」
杉岡の背中をこんな言葉で押した指揮官は、ある程度の確信を抱いていた。実はFC東京U-15深川時代の指導者から、ボランチでプレーしていたときの情報を入手していた。
「ボランチできるのはアイツしかいなかったけど、よくやっていたし、結果的にいい意味での驚きだった。でも、東京オリンピックのことを考えれば、ボランチもできたほうがいい。サイドバックもセンターバックもボランチもできたほうが、はるかにいいからね」
実はアントラーズ戦には、東京オリンピックに臨むU-21日本代表チームのスタッフが視察に訪れていた。身長182cmと高さがあり、左利きで、なおかつポリバレントな存在となる杉岡がボランチでプレーしたことは、森保一監督にも確実に伝わったはずだ。