「政府高官と王室関係者の欠席」にとどめておくのが妥当か
今回の事件で被害者の立場を取る英国が、同時にロシアの恩恵を受けてもいる現状もボイコットが説得力を欠く理由だ。
最たる例は、一時期のバブルは弾けたと言われても高値で知られるロンドンの不動産業界。数年前に足が遠退いたかに思われたロシア人富裕層は、英国のEU離脱に伴うポンドの下落を見逃さず、再び購買意欲を取り戻している。
市内中心部のメイフェア、北部のハムステッド、西部のチェルシーといった高級住宅エリアでは、この2、3年で新興勢力となっていた中国人バイヤーを押し退けて、富めるロシア人たちが、平均でも150万ポンド(2億3千万円弱)前後のマンションを買い漁っているようだ。
ロシア系資本による巨額の買い物には、いまだに「マネー・ロンダリング」の疑いが外野で囁かれることもあるが、肝心の市場では上客として歓迎される。
今季の所属20クラブでは、チェルシー、アーセナル、ボーンマスに同国資本が入っているプレミアリーグも、その市場の1つ。徹底調査の結果次第で措置をとるとなれば、英国側にも影響の出る分野に関しても強行路線を検討するのが正論というものだろう。
だが、それが非現実的なシナリオであることは言うまでもなく、であれば、やはりロシア大会ボイコットは、メイ首相が既に公言している英国の「政府高官と王室関係者の欠席」にとどめておくのが妥当と思われる。
大会には出向かない1人のウィリアム王子がイングランドFA(サッカー協会)総裁の名誉職にあることから、形の上では英国サッカー界としても抗議のスタンスを示すことにはなる。
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