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ミスター100%、トニ・クロースは“失敗できない”体質。皇帝以上のノーエラー主義【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

冷静沈着ノーエラー

 ある試合で、ミスター100%でもボールを失うだろうと思った場面があった。しかし、クロースは失わなかった。そのときクロースはセンターサークルで味方の縦パスを受けようとしていたのだが、背後からは猛烈に敵が寄せてきていた。MFが決してボールを失ってはいけない場所だが、意外と失いやすい状況でもある。

 背後から敵が来ているのはわかる。味方が声をかけているだろうし、気配で感じることもできる。事前に周囲の状況を把握していれば想定内かもしれない。ただし、この状況だとボールと敵を同じ視野には収められない。ボールを見れば敵の動向がわからず、敵を見たらボールがどこにあるかわからない。

 とりあえずボールと反対側を見ながら止めることはできないので、まずはボールを見なければならない。しかし、ボールを見ると、ボールが足下に到着するまでは敵の様子はわからないままになる。ボールにタッチした瞬間、おそらく敵は体に触れられるところまで来ていると予測される。ボールを待ちながら、見えない敵のプレッシャーに苛まれるわけだ。

 こういうときボールを動かして背後の敵をかわそうとすると、たいがい「食われる」。すでに走っている敵のほうが速いうえに、自分は敵が見えないのに、敵はすべてが視野に入っているからだ。では、クロースはこの危機をいかに回避したのか。

 まず、あえて敵に近いほうの足(左足)で止めていた。ボールを守りたければ敵から遠い方にボールを置いたほうが良さそうに思えるが、おそらく敵を視野に入れるために近いほうへ置いたのだろう。ボールを見ながら、敵も間接視野に入れられるからだ。

 そしてクロースらしかったのは、左足のインサイドと地面の間にボールを挟んで完全に静止させたことだ。ボールに屋根をかけるように足と地面でロックした。最後に敵のタックルが来る寸前にボールを敵の足が届かないところに離し、足にタックルさせてファウルをもらった。

 状況からして、これがベストの選択だったと思う。最も厳しい状況でも冷静沈着、ベストの回答を瞬時に叩き出せる。もはやミスができない体質といっていい。

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