イニエスタ=フットボール
アンドレス・イニエスタ――今さら多くを語るまでもない偉大なプレーヤーだが、あえて言うならイニエスタはフットボールそのものである。
リオネル・メッシが天才ならイニエスタは達人だと思う。過剰なものがなく足りないものもない。相手のタックルをぎりぎりでかわし、ピンポイントのパスを出し、バックパスすべきときは何の躊躇もなくボールを下げる。
無理もなければ無駄もない。思うがままにプレーして、それが全部チームのためになる。素晴らしい選手でも、自分の特徴を出そうとして自滅してしまうことがあるが、イニエスタにそれはほとんどない。かといって、とくに自重している感じもない。その判断や一挙手一投がサッカーと矛盾しないのだ。
無駄がないのは相手が見えているからだ。狭い場所でパスを受け、敵がボールを奪おうと寄せてくるとき、イニエスタは全く動じていない。敵の動きが見えているので、最小限の動きでかわせる。
驚かされるのは、相手が動いているならまだしも、動こうとしている瞬間さえ見逃さないことだ。これはおそらく視覚よりも感覚に近く、見えているというより感じるのではないかと思う。
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