ランゲラックのGK哲学。日本人GKが手本とすべき存在に
あのオーストラリア代表でさえ、ランゲラックは第3あるいは第4GKの扱いなのだ。プレミアリーグで活躍するマット・ライアンを始め、かつてベガルタ仙台に所属し現在はベルギ−1部で存在感を発揮するダニー・ヴコヴィッチや、フェイエノールトでオランダ1部優勝に貢献したベテランのブラッド・ジョーンズら実力者が揃う中で、元ボルシア・ドルトムントの守護神は難しい立ち位置にいるのである。
では、ランゲラックがプレーで体現する哲学はどんなものなのだろうか。彼は次のように話した。
「僕のGKとしての哲学は『常にチームを助けること』。あくまでチームにとって正しい決断を下していきたい。僕のいいプレーが出ればチームにいい影響を与えることができる。そうなれば僕はハッピー。さっきも話したように、僕がフットボールをプレーする上で一番の喜びは、チームを助けらた瞬間だね。いい判断を下したり、いいセーブを見せたり、そういうチームのためのプレーを示していくことが僕の哲学だ」
どんな時でも準備を怠らず、自分の仕事に備える。鍛錬を重ねて磨き上げたハイレベルな基礎技術が、ランゲラックのあらゆるプレーのベースになっている。元日本代表GKで横浜F・マリノスの松永成立GKコーチはある時、「日本人の選手や指導者の中には、まだ『基礎技術』の本質を誤解している人もいる。それをしっかりと身につけていれば、複雑なプレーに応用し発展させていくことがより容易になる」と説いていた。
まさにその通りで、ランゲラックのプレーは体に染みついた「基礎技術」をいくつも組み合わせて繰り出される。難しそうに見えるセーブも、明確な根拠に基づいて論理的に組み立てられた即時の判断が為せる業であり、日頃の「準備」の賜物なのだ。
Jリーグでさっそく圧倒的な存在感を発揮するオーストラリア代表守護神は、日本でGKを志す者のお手本になる存在と言えるだろう。ぜひ彼のウォーミングアップから試合中の一挙手一投足、90分間戦い抜いてロッカールームに下がるまでの所作…それらすべてから目を離さずトップレベルのプロフェッショナルとは何たるかをスタジアムで体感してほしい。
(取材・文:舩木渉)
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