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Jリーグ 7年前

名古屋GKランゲラックが示す世界基準のプロフェッショナル。熟練した基礎技術と「準備」の哲学

text by 舩木渉 photo by Getty Images

抜群のキック精度。それでも代表や欧州での立ち位置は…

ミッチ・ランゲラック
美しいフォームから放たれるランゲッラクのゴールキックは確実に最前線のジョーの頭に届く。飛距離も抜群だ【写真:Getty Images for DAZN】

 身振り手振りを交えながら笑みを絶やさず取材に応じる守護神が意識するのは、常に「チーム」なのである。GKだけが試合の中で目立つことは決して望まない。

「チームのために(相手のプレーを)予測して声を出すこともできていたし、他の選手たちも素晴らしいプレーをして、90分間走りきり、全員が一緒になって楽しみながらハードワークできていた。まだ3試合を終えたところだから、これから全員で勝つか負けるかを決めるような場面に出会うと思う。そこで重要なのは全員が一つになり、結果のために戦えるチームとしてのキャラクターを表現していくことだ」

 シュートストップだけにとどまらず、ランゲラックはキックの精度も非常に高い。ゴールキックの場面、一見するとランダムな方向に蹴っているようだが、ほぼ確実に最前線のジョーの頭にきれいなバックスピンのかかったボールを届けていた。しかも、長身でパワフルなブラジル人FWが動いてポジションを取り直すことなく、なるべく最初の立ち位置で相手DFに対して優位を保ったまま競り合えるよう配慮がなされたボールを供給した。

 湘南戦でロングボールを多用していたのも「相手のビデオを見たとき、彼らが僕たちにプレスをかけてくることはわかっていた。狂ったようなプレッシングで追いかけてくる」というのがわかっていたから。「今日に関しては特にゴールキックでボールをセットしたとき、相手はすでにプレスをかける準備ができていた。何度かダミーで偽装しようとしていたと思うけど、よく見ればプレスをかけようとしていた。そういうとき、チーム全体の責任を負うのは僕だ。もし僕が悪いパスを出して、プレッシャーをかけられたうえにボールを奪われてゴールを決められたら『あれは効果的なプレッシングだったね』と言う人もいるかもしれないけど、それを見れば実際は僕の過ちだ」と、綿密な「準備」と経験に基づいた確実な予測によって導き出された選択だった。

 だが、ひとつ覚えておかなければいけないのは、ランゲラックほどのクオリティを備えていても欧州の主要リーグでは正GKの座を掴むことすら難しいのである。前所属のスペイン1部レバンテではカップ戦要員だった。チャンピオンズリーグにも出場したとはいえ、ボルシア・ドルトムント時代もドイツ代表GKロマン・ヴァイデンフェラーの控えで、欧州で正守護神だったのはシュトゥットガルトでドイツ2部を戦っていた頃だけだったと言ってもいいくらい。

 それだけで真のトップレベルにも止められる水準の高さがうかがい知れる。昨今Jリーグで日本人正守護神の減少が叫ばれることにもつながるが、欧米の列強国で現地のGKと渡り合うだけの力が国産GKあるのかという点で、我々はこれまで以上に危機感を持たなければならないだろう。

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