個の突破力だけに頼らない崩しのパターンを作れるか
ただ、現状はシュートまで持ち込める回数が少ない。柏戦後に「今日の自分のプレーは納得できるものではない」と語った右ウィングの遠藤渓太は「サイドで自分が主体になって仕掛けられなかった」と自らの不甲斐なさを悔やんだ。逆サイドのユン・イルロクも単独突破を仕掛けて行き詰まる場面が多く、FWに決定的なラストパスを供給する回数は少なかった。
似た戦術を採用しているマンチェスター・シティの両サイドには世界屈指の打開力を誇るレロイ・ザネやラヒーム・スターリング、ベルナルド・シウバがいる。同じくペップ・グアルディオラ監督が率いたバイエルン・ミュンヘンにも、フランク・リベリやアリイェン・ロッベン、キングスレイ・コマン、ドグラス・コスタといった規格外のドリブラーが揃っていた。
だが、マリノスにザネやロッベンはいない。昨季サイドで猛威を振るった齋藤学やマルティノスも移籍という形でチームを去った。今のマリノスはウィングの単純な突破力に頼らない新たな攻撃の形を模索しなければいけないのかもしれない。
遠藤との交代で出場したイッペイ・シノヅカは「ボールをもらいに中へ入ったり、いろいろな形を増やしていけばサイドがもっと怖くなる」と話していた。いまは両ウィングが常にサイドに張って幅を確保するのが前提になっているが、状況に応じてポジショニングを調整する、あるいは近い距離にいるインサイドハーフや追い越してくるサイドバックとのコンビネーションを攻撃に組み込んでいくことも必要になってくるはずだ。
シティではゴール前の崩しにダビド・シルバやケビン・デ・ブライネが絡んでくるように、チームの現状に合わせた戦術のカスタマイズは今後の戦いの中で鍵になる。ベースとなる戦い方が同じでも、所属する選手の特性に合わせて調整しなければ効果的な噛み合わせは生まれない。現に最終ラインとGKの関係などは微調整を続けて徐々に安定感を増している。
新しい戦い方で自信を掴むには、まず勝利という結果こそが何よりも重要になる。1つの勝ちで視界は一気に開けるはず。そのためにはゴールを奪わなくてはならなず、必然的にアタッキングサードでの崩しの質も上げていかなければならない。
理想を完成させるための近道はなく、シュートチャンスの数を増やすべく一歩ずつ積み上げていくことこそが初勝利への最も有効な道のりではないだろうか。
(取材・文:舩木渉)
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