明確に変わってきた体つき。開花するポテンシャル
のちにユニバーシアード台北大会を制した日本代表が、いわきFCフィールドでキャンプを行っているときに練習試合を申し込まれた。本大会を見すえて、フィジカルが強い中東勢に似たチームと対戦しておきたいと望まれ、急きょ組まれた一戦だった。
もっとも、鍛錬期の佳境で疲労が極限に達していた選手たちの動きは鈍い。頭では理解していても、思うように体を動かせない。攻守ともに精彩を欠いていた。
主審を務めていた田村監督は、「鍛錬期だから結果どうこうではなく、とにかく歯を食いしばってやろうと送り出した試合だったので。主審をしながら僕自身も『情けないな』と思いましたけど、一方でこれだけのウエイトトレーニングやストレングストレーニングをやった後の試合は、地獄だよな、とも思いましたよね。
もし僕が現役だったら『こんなの絶対に無理ですよ』と言っているはずです。それだけきつい時期を送っていました」
ピッチの脇に用意された鉄板のうえで大量の肉を焼き、練習を終えた直後に一人につき500グラムから600グラムを腹にかき込む「肉トレ」が週2回のペースでスタートしたのも、昨夏の鍛錬期中だった。なかには朝昼晩と、卵を2個ずつプラスして食べる“猛者”もいた。
試行錯誤が繰り返されながら、これまでの常識を覆すようなトレーニングが継続されてきたなかで、いわきFCだけでなく日本サッカー界の未来を担えるポテンシャルを秘めた逸材が、明確に変わった体つきとの相乗効果で頭角を現し始めている。
たとえば福島県の強豪、尚志高校から昨春に加入した高橋大河(19)。2回戦で敗退した2016年度の全国高校サッカー選手権で、控えの攻撃的MFを務めていたほぼ無名の少年は、3バックの左ストッパーあるいは左アウトサイドを主戦場として急成長を遂げていると田村監督は言う。
「ポテンシャルがあったし、左利きだったこともあって、左サイドディフェンフダーヘコンバートしました。ウチに入ったときは本当にヒョロヒョロで、僕が『豆』と呼んできた選手でしたし、技術的にも粗削りでした。
それでも走力があったし、体に無理も効いた。1年間鍛えたらもっと動けるようになって、もともと身体能力が高かったのでほとんど当たり負けもしない。ここにきてグッと伸びていますよね」
高橋のサイズは173センチ、65キロ。加入した直後に実施された遺伝子検査で、パワー・スプリント系と持久力系の両方の要素をもつポリバレント系であることがわかった。遺伝子のタイプに合ったトレーニングメニューのもと、この冬でさらにたくましく変貌を遂げているはずだ。