「明らかにやったやつが、明らかに変わる」
そして、栗原選手の一挙手一投足がさらに刺激を与えてくれた。体を大きくしたら動けなくなるのではないか――というサッカー界全体に長く根づいていた先入観を、完全に吹き飛ばしてくれたと田村監督が目を細める。
「栗原さんは名言も残してくれたんですよ。曰く『明らかにやったやつが、明らかに変わる』と。要は練習をやっていないから、できないんだと。簡潔ですけど、非常に説得力がありました。誰よりも重いものをもち上げて、誰よりも速く動ける一流選手の言葉は心に響くので。
さっそく翌日から、みんな自主的にトレーニングを始めていましたよ。練習前の早朝にクラブハウスに来て筋トレをやっている選手もいれば、仕事が終わった後の夜に筋トレをやっている選手もいた。僕たちが何かを言うよりは、本当にわかりやすいと思いましたよね」
昨シーズンを例に取れば、いわきFCは1週間のうち3日を、ウエイトトレーニングやストレングストレーニングにあててきた。
原則オフとなる月曜日から明けた火曜日と水曜日に、日本サッカー界初の商業施設複合型クラブハウス『いわきFCパーク』の2階に入っている、最新鋭の機器がそろったトレーニングジム「ドームアスリートハウスいわき」で午前9時から約2時間汗を流す。
続いていわきFCフィールドでボールを使ったトレーニングに移るが、両日とも30分ほどの時間で終わる。木曜日は室内での練習が1時間半とやや短縮され、その分だけ屋外練習が1時間に増える。金曜日と土曜日は屋外で長くて2時間の練習を消化し、週末の試合に臨む。
特に火曜日に上半身、水曜日に下半身、木曜日には全身を徹底的に鍛える練習内容は、Jクラブでは絶対に見られない。現役時代は湘南ベルマーレでボランチとしてプレーし、2010シーズンで引退した後はベルマーレ強化部でテクニカルディレクターを務めた経験をもつ田村監督も、苦笑しながら「僕自身も驚いています」とこう続ける。
「僕じゃなかったら、もしかすると普通の監督さんだったら、ボールを使う練習が30分間だと『ノー』と言うかもしれないですね。僕としては、ストレングストレーニングの成果をサッカーにつなげる方法を、限られた時間とメニューのなかで、ピッチ上で取り組ませている感じなんですけど。
あくまでも感覚論ですけど、何となくダラダラ練習をするのと、短い時間で神経を集中させるのとではかなり違うと思う。加えて、もしもベンチプレスを落としたら大けがをしかねないので、日々の練習で上げるときの緊張感や集中力が、ピッチでの練習にも生かされているのかもしれないですね」