11年の時を経て…湧いてくる感慨
それでも当時を嫌な時代だと思ったことはない。当時を知る人たちとそんな時代の話をするとき、僕らの顔は自然と笑顔になり、心はジンワリと暖かくなってくる。
それは、思い出が美化されるからだろうか、それとも、何も無くても、夢はたくさんあって、可能性だけは信じ続けていたからだろうか。そんな時代に初めて戦ったJクラブと、11年後のJ1開幕戦で激突するのだ。感慨が湧かないわけはない。
会場に到着し、スタンドを眺めてみる。湘南とは2014年と昨年にも対戦しているし、取材にも来ているのだが、そのときは余り感じなかった、昔の光景が甦えり今と重なる感覚が湧いてくる。
当時はバックスタンドとゴール裏は解放されなかったので、メインスタンドのみでの応援したのだが、この日のは人が溢れんばかり……とまでは言えないが、大勢の長崎のサポーターがゴール裏に陣取って応援の準備をしている。
11年前の対戦では持っていった横断幕がメインスタンドに張り切れず、運営スタッフに頼んでバックススタンドに貼らせてもらったが、この日はしっかりとゴール裏に貼られている。当時は小学校に入学したばかりでスタジアムまで来れなかった知り合いの女の子が、すっかり大きくなって嬉しそうに飛び跳ねている。
もちろん、11年前の対戦に出場した選手はどちらのチームにもいない。当時の監督でクラブ創設以来のスタッフだった岩本文昭は、昨年末でクラブを退職し現在は国際交流関連の会社に勤務している。
エースストライカーだった有光亮太は、引退後に県内で少年サッカーチームを立ち上げた。DFの要だった久留貴昭は2010年の引退後、高校教師となりサッカー部を率いて、当時の代表取締役だった小嶺忠敏が監督を務める長崎総合科学大学附属高校と激しく全国を賭けて戦い続けている。
みんなクラブの歴史に何かを残した先人たちなのだが、何しろ今の長崎でプレーする選手たちの大半が小学生や中学生だった頃のことである、そんな先人や残した記憶や記録を知る者はチーム内にもほとんどいない。