ヴェンゲル体制終焉が叫ばれても仕方ない惨敗
監督からして、18分の1失点目では相手のファウル、58分の2失点目ではオフサイドを訴えた姿は、不甲斐ない自軍への苛立ちから相手監督と第4審判に八つ当たりしているかのようだった。
ゴールキックがラストパスとなったシティの先制シーンでは、アグエロに軽く突かれただけでシュコドラン・ムスタフィが競り合いを止めた。追加点は、不必要なCKと不徹底なマークから許したもの。
65分には、シルバのターン1つでカラム・チェンバースのマークが剥がされて3点目を奪われた。いずれも、ヴェンゲル体制下で問題視されて久しい「守備軽視」が招いた自業自得の失点だ。
逆にヴェンゲル体制の美点であったはずの攻撃にも、新1トップのピエール=エメリク・オーバメヤンを目がけた苦し紛れのロングボールは見られても、プレミアの「パスサッカー元祖」らしい姿は見られなかった。
前半には、組み立てる意識と戦う意志を感じさせた、数少ないアーセナル攻撃陣だと思えたジャック・ウィルシャーにしても、後半にはフラストレーションを募らせて敵に突っかかるだけの存在になり下がってしまった。
フルタイムまで25分を残していながら、スタンドの「12人目」に退席を促す格好になった3失点目は、ウィルシャーのロストボールに起因してもいる。
アーセナル陣営のスタンドが空席だらけだったフルタイム目前、出入り口の真上にあった筆者の記者席には、「やってらんねぇ!」と叫びながら去る男性ファンが放り投げた決勝仕様のマフラーが降って来た。
1分もしない内に、階下で「それ頂戴!」と言う別の男性にマフラーを投げ返すことになったように、まだまだ現アーセナルに幻滅していないファンもいるにはいる。だが、その割合は格段に減ったように思えてならない。
「1つでも負ければ危機だと騒がれる」と、メディアに釘を刺していたのは決勝前のアーセナル指揮官だが、22年目のヴェンゲル体制終焉が叫ばれても仕方のないウェンブリーでの惨敗だった。
グアルディオラ体制のシティにとっては、帝国誕生が騒がれても不思議ではない決勝での楽勝だったように。
(文:山中忍【イングランド】)
【了】