「弱者だからこそ勝たねばならない」
「日本最高峰のリーグでの戦いを見てもらうことで、サッカーを理解してもらって、(この街に)クラブが必要だと思ってもらいたい」
今季の始動日、J1での戦いを通して県民に見せたいことを問われた高木監督はこう答えている。
長崎がJリーグクラブとなって今年で6年目となるが、まだまだ生活の中で「サッカー文化」と呼ばれるものを見かけることは少ない。
昨季のリーグ終盤には多くの県民がスタジアムに詰めかけたが、そこにはオーナー企業であるジャパネットグループの営業力と、昇格寸前というシチュエーションの影響が大きく、サッカー自体を見る、楽しむという空気感はまだ少なかった。
だが初のJ1での戦いを前にした今、長崎の街では少しずつではあるが、何気ない会話の中や街並みにクラブやサッカーのことが増え始めてきた。県民の目はサッカーをイベントではなく、文化として見つつあるのではないかと感じるようにもなってきた。
クラブ規模やチームの戦力・実績を思えば、J1における長崎はまだ弱者だ。街とサポーターによる支えを力としなければJ1を戦い抜くことは難しい。
そして、ようやく生まれてきたサッカー文化の芽を守り、共に支え合っていくには、県民に勝利を経験してもらうことは重要だ。勝利が全てではなくとも、勝つことでしか得られないものもあるのは事実なのだ。
それは結果としてチームに「弱者だからこそ勝たねばならない」という矛盾を抱えたミッションを課してしまうわけだが、それを不可能だと簡単に諦める者は今の長崎にはいないだろう。
このチームにはJ2参入以来5年間で2度J1昇格プレーオフに進出し、昨年には激動下での奇跡のJ1昇格達成といった実績がある。2度あることは3度あった。ならば4度目は……。
乱戦になりやすいと言われるワールドカップイヤーのJ1参入1年目、長崎は虎視眈々と波乱の主役となる時を狙っている。
(取材・文:藤原裕久)
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