「お前、スクワットに人生をかけていない。だから甘いんだ」
チーム内でいつしか「肉トレ」と命名された、壮観な昼食の意図を田村監督は笑顔で説明する。
「練習が終わってすぐに肉を食え、と。一人あたり、だいたい500グラムから600グラムでしょうか。霜降りなどではなく赤身の多い、ブラジル料理でいうシュラスコですね。焼きながらちょっと脂身を落としたものを、フェジョンという豆や白飯と一緒にかき込みます。
なかには気分が悪くなる選手もいるかもしれない。Jクラブにはできない、斬新なトライかもしれませんけど、何とか体を大きくしよう、それでいて速く動けるようにしようと思っているので。正しいかどうかはわかりませんけど、実際、筋量と体重は増えているのに体脂肪率は下がっているんです」
最も体つきが変わった選手の一人として、田村監督は駒沢大学出身の24歳で、昨シーズン選手会長を務めたFW菊池将太をあげる。177センチ、77キロのサイズながら空中戦を得意とする、典型的な「剛」のタイプの点取り屋は昨年6月の天皇杯2回戦で、いわきFC関係者を驚かせるシュートを決めている。
舞台はJ1の北海道コンサドーレ札幌と対峙した、大雨が降り続く札幌厚別競技場。延長戦に入っていわきFCが3‐2と1点を勝ち越して迎えた114分に、カウンターから芸術的なループシュートをネットに吸い込ませた。
J1から数えて7部に相当する福島県社会人リーグ1部を戦っていた、無名のアマチュア軍団による歴史に残るジャイアントキリングを決定づけた一発は、ドームの安田代表取締役CEOの間でちょっとした議論を呼び起こしたと、大倉代表取締役が苦笑いしながら明かす。
「あんなプレーをできる選手じゃないので、なぜだと安田と2人であれこれ話していたら、彼が面白いことを言うんですね。スクワットを上げる瞬間に一気に高まる、『ガッ』という集中力のなせる業だと。万が一、落とせば命に関わるという集中力と、シュートの瞬間が一致したんだと。
よくわからない話だけど、何となく納得できたというか。安田はアメリカンフットボールの選手だったので、僕とは対照的に学生時代からそれこそ筋トレばかりしていた。いまでは僕がたまにやると『お前、スクワットに人生をかけていない。だから甘いんだ』と言われますけどね」