日本サッカー界でもほとんど前例のない遺伝子検査
選手たちは体重と体脂肪率、そして骨格筋量を毎日測定して、年間を通してデータ化している。しっかりとトレーニングに取り組んでいるか否かが一目瞭然となるうえ、2ヶ月に一度の実施される血液検査を介して、栄養のバランス状態もチェックされる。
食事はドームによる徹底した栄養管理のもと、一日3食がクラブハウス内で提供されている。それでも不足している栄養分が血液検査を介して確認されれば、その選手に見合ったサプリメントが提供されて補給する。
もっとも、すべてがサッカー界では初めての試みであり、当然ながら試行錯誤が繰り返される。たとえば2016シーズンはウエイトトレーニングやストレングストレーニングを約2時間、1週間に3回ずつ消化しながら、それでも骨格筋量がまったく伸びなかった選手がいた。
「これだけトレーニングをしているのに伸びない、というのは何か原因があるよねという話になったときに、ドクターから遺伝子検査があると聞かされました。選手個々の筋肉に合ったトレーニングでなければダメなんじゃないか、ならば思い切って検査をしてみようとなったんです」
強化・スカウト本部長を兼任する田村雄三監督(35)は昨シーズンの始動時に、日本サッカー界でもほとんど前例のない遺伝子検査を、全選手を対象として実施した経緯をこう振り返る。唾液を採取して分析するだけで、3つのタイプに分類されると指揮官は続けた。
「パワー・スプリント系、持久力系、そして両方の要素をもつポリバレント系ですね。タイプごとで筋トレのメニューも全然違ってきます。1年目に伸びなかった選手は持久力系の遺伝子をもっていることがわかりましたが、実はパワー・スプリント系のトレーニングばかり消化していたんです。
これまではたとえば重さ100キロを連続して5回、素早く上げていたのを、持久力系ならば50キロを10回上げればいい。トレーニングのメニューを変えた結果、昨年だけで骨格筋量が2キロほど増えました。もちろんその選手だけでなく、一人ひとりのメニューを見直しました」
食事でも試行錯誤が続いた。クラブハウスだけの食事ではどうしても飽きがくるからと、近くにある鳥鍋店へ場所を移したことがある。もっとも、料金と食べる量がなかなか一致しないこともあって、選手たちは白飯をより多く取るように勧められた。
「体を大きくするには白飯という先入観が僕たちにあったんですけど、そうすると体脂肪率が上がってきちゃったんですね。じゃあ白飯は最低限でいいから、とにかくたんぱく質を取ろうとなったときに、アメリカ人やブラジル人に倣って、結局は肉じゃないかという話になったんです」
いわきFCの練習は午前中に行われる。そして、昨年の夏場から週に2度、基本的には水曜日と木曜日に練習が終了する頃合いを見計らい、アカデミーのスタッフたちが練習場のすぐ横に用意された大きな鉄板のうえで、大量の肉を焼き始める光景がいわきFCのルーティーンに加わった。