チェルシー先制で一気に動き始めた試合。明暗分けたのは一瞬のミス
16分のシーンが象徴的だった。ボールを少し運ぶことでウィリアンをつり出した左センターバックのサミュエル・ウンティティが、左サイドバックのジョルディ・アルバへパス。アルバに対しチェルシーの右サイドバックが遅れてプレッシャーをかけていたこともあり、その裏でイニエスタがフリーでボールを受けることに成功した。
イニエスタからはさらに中で待つメッシへボールが渡り、最終的には少し左へドリブルしたメッシのクロスがパウリーニョのヘディングシュートに繋がっている。
しかし、主に左サイドからの崩しを狙ったバルセロナも、前半を通して相手の強固な守備を崩しきることはできなかった。対してチェルシーは、強力な攻撃力を誇るバルセロナに対して最善かつ唯一の方法である5-4-1の守備を懸命にこなすことで前半を0-0で終えた。
バルセロナにアウェイゴールを与えないことを優先としていたチェルシーは、後半に先制点を決めることで理想的な展開へ持ち込んだ。前半、個での打開力が光るウィリアンが後方からのロングボールで深い位置に侵入してポスト直撃のシュートを2度放っていたが、62分、このブラジル代表MFはコーナーキックのこぼれ球を3度目の正直でゴールの右隅に流し込み、チェルシーに待望の先制点をもたらす。
先手を取ったことで、チェルシーの守備意識は増していった。一方、前半から狙いであった相手のウイングの背後のスペースを攻略する機会を徐々に増やしてたバルセロナにとっては、相手の守備意識の向上はリードを奪われたという事実以上に痛いものとなった。
故に、チェルシーのビルドアップのミスから75分にメッシが奪った同点弾は両者にとって大きな意味を持つこととなった。チェルシーは、ほんの小さなチャンスをものにする相手に対し、絶対に犯してはならないミスを犯してしまった。バルセロナは、ボール保持と論理的な崩しの裏で、思いがけないチャンスをものにした。
チェルシーの先制点がバルセロナに大きな精神的かつ戦術的ダメージを与えたように、この予想外の同点弾は、両チームの2ndレグでの戦い方に大きな影響を及ぼしそうだ。ベスト8進出のために敵地カンプ・ノウでゴールを奪わなければならないチェルシーは、今回の試合よりも攻撃に比重を置いたプランで臨むことを強いられる。
対してアウェイゴールを奪ったバルセロナは2ndレグが無失点であれば問題なくベスト8へ進めるため、相手の出方によってしたたかに、余裕をもって試合を進めることができるかもしれない。
(文:長坂祐樹)
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