FAが調査を依頼。認知症の潜在的リスクがサッカーにあるのか
2017年11月23日、イングランドフットボール協会(FA)は引退したプロサッカー選手の健康調査に資金を提供すると発表した。ヘディングによる脳へのダメージが後年に認知症などの脳・神経障害を引き起こすのではと不安が広がる英国で大きな一歩を踏み出す。対象となる引退選手は1万5千人にものぼる。
脳神経外科が専門でサッカーの頭部外傷に詳しい東京慈恵会医科大学の大橋洋輝講師も「大規模なFAの調査に注目しています」と話す。
サッカーは選手同士が激しくぶつかるスポーツ。接触で負う怪我は選手にとって“宿命”ともいえる。ボールはもちろんのこと、頭は頭どうしや顔、肘、膝などと激しくぶつかる。しかし、近年、注目されているのは頭部の激突による怪我ではなく、“普通のヘディング”。ヘディングの繰り返しによる脳にダメージが潜伏したまま、数十年後に認知症を発症させるのではと危惧されているのだ。大橋医師はこう語る。
「単回のヘディングでは一般的なCTやMRI画像で異常が見られなくとも、ヘディングの繰り返しで神経細胞に変性が起こり、ダメージが蓄積すると認知症のようになる可能性がある。慢性外傷性脳損傷と言うスポーツに特有な状態が、もしかしたらヘディングで起こるかもしれない」
特にヘディングと認知症とのつながりに関心が高いのが英国だ。昨年11月にもヘディングを武器にプレミアリーグで3季連続得点王を獲得した伝説的なストライカーで、イングランド代表の主将もつとめたアラン・シアラーをナビゲーターにした、ヘディングと脳障害との関連をさぐる番組『認知症とフットボールと私』が英・公共放送のBBCで放送されたばかりだ。
調査開始を表明したFAのマーチン・グレンCEOは「この新たな調査は、引退した選手たちの長期的な健康を包括的に調べるもの。認知症は深刻な症状になることもある。英国サッカーを統括する組織として、病気の潜在的なリスクがサッカーにあるのかどうか、理解するために調査を依頼した」とコメントを発表した。
選手組合もこの決定を歓迎し、調査に協力する。PFAのゴードン・テイラーCEOは「この20年、引退後の神経障害と脳振とう、頭部外傷、ボールへのディングとの関連を気にかけてきた。しかし、これまでの調査や研究は決定的ではなかった。元サッカー選手は一般の人より脳・神経障害を本当に発症しやすいのか、新たな調査をサポートするというFAに感謝する」と続いた。