「内田選手が入ってくるんですか?」
内田篤人が鹿島アントラーズに復帰するらしい――ドイツ発の未確認情報が、日本サッカー界にも伝わっていた昨年末のある日。アントラーズの強化責任者に就いて実に22年目のシーズンを終えようとしていた、鈴木満常務取締役強化部長(60)は東京都内にいた。
完全移籍のオファーを出していた、東京ヴェルディのDF安西幸輝(22)との交渉の席。J1最終節で優勝をさらわれた川崎フロンターレを含めて、複数のJクラブが獲得に乗り出していたホープは、鈴木常務取締役にこう問いかけてきた。
「内田選手が入ってくるんですか?」
ヴェルディ時代の安西は、左右のサイドバックおよびアウトサイドを主戦場としていた。内田が復帰すれば、右サイドバックでポジションがかぶる。ブンデスリーガ2部のウニオン・ベルリンとの交渉が大詰めを迎えていたなかで、間もなく発表されるであろう事実に対して曖昧な答えは返せない。
「そのときは『多分』という話をしました。ネガティブな言葉が帰ってきたらどうしようと思っていたら、安西は『ぜひ獲ってください。一緒にプレーしたいんです』と言ったんですよ」
小学生年代のジュニアからヴェルディひと筋で育った安西は、ジュニアユースの卒業を間近に控えていた2010年に、サイドハーフからサイドバックへ転向している。潜在能力を見抜いたのは、炎の左サイドバックとして日本代表に一時代を築いた、ヴェルディOBの都並敏史氏だった。
そのときから、アントラーズから移籍したブンデスリーガの古豪シャルケと日本代表の両方で輝きを放っていた内田が、安西にとっての憧れの存在となった。だからこそポジション争いが激しくなり、たとえベンチに座る時間が多くなっても、アントラーズへ移籍することを決めた。
同じ思いを、静岡学園高校から加入して6年目のシーズンを終えようとしていた伊東幸敏(24)も抱いていた。2017シーズンは24試合、1036分間とともに自己最多をマークした右サイドバックは、高校時代から同じ静岡県出身の内田の背中を追いかけてきた。