獲得したオーバメヤンはいわゆる〈不良債権〉
アーセナルを率いて21年、プレミアリーグの実情をだれよりも知るヴェンゲルが、なぜ躊躇しているのだろうか。
莫大なテレビ放映権料によって潤沢な補強費を準備できるいま、投資を拒む理由がさっぱり分からない。トップ6とは名ばかりで、チーム力もシーズンごとに低下している。
昨年の夏にトマ・レマル(ASモナコ)を取り逃がし、冬の市場ではジョニー・エヴァンズに対するオファーで時機を逸した。
「移籍期限の1月31日に打診されても、交渉を数時間でまとめられるはずがない。少なくとも48時間の準備が必要だ。まして1200万ポンド(約18億円)ではね」と、ウェストブロミッチ・アルビオンのアラン・パーデュー監督にたしなめられている。
エヴァンズの市場価格は、最低でも2000万ポンド(約30億円)だった。
ボルシア・ドルトムントからエメリク・オーバメヤンを獲得したとはいえ、守備を疎かにし、素行に問題が多々ある男だ。
他チームが次々と手を引いた、いわゆる〈不良債権〉。その程度の選手に、アーセナル史上最高額となる5600万ポンド(約84億円)もの移籍金を支払うとは……。ハイリスク・ローリターンになりかねない。
また、冬の市場ではオリビエ・ジルーがチェルシーに、テオ・ウォルコットがエヴァートンへ去った。サンチェスを含めて3人のFWを手放している。
さらに昨年の夏は、アレックス・オクスレイド=チェンバレンがリヴァプールに移籍した。
昨シーズン、この4選手で合計48ゴール・22アシスト。アーセナルの総得点は77。実に91%が失われた。人件費は削減できたかもしれないが、戦力的には大幅ダウンである。
こうした負の連鎖はヴェンゲルの独断なのか、強化を取り仕切るスヴェン・ミズリンタットも含めた連帯責任なのか。いずれにせよ、チームが抱える問題に向き合ってはいない。手を付けるべきは質量ともに不足しているDFだ。
「マンチェスター・シティはDFの整備に非常識な投資をしている。マネー・ドーピングだ」というヴェンゲルの指摘は、的を射ていない。オーバメヤンの獲得に5600万ポンドも支払えるのなら、エヴァンズともうひとり、最終ラインを補強する必要があった。