猛然とスプリントを開始した背番号2
たったひとつの言葉で、7年半にもおよぶブランクを埋めてみせた。鹿島アントラーズのDF内田篤人は、キックオフを前にしてキャプテンのMF小笠原満男に幾度となくこう耳打ちしている。
「最終ラインの裏ではなくて、相手のキーパーのところまで斜め前に入っていくので、そこを見ていてください」
同じ茨城県内にホームタウンを置く、水戸ホーリーホックとプレシーズンマッチで対峙する恒例のいばらきサッカーフェスティバル。敵地ケーズデンキスタジアム水戸で3日に開催された第13回大会のハイライトのひとつが、37分に飛び出したビッグプレーだった。
ハーフウェイラインからちょっとだけ敵陣に入った右サイドで、小笠原がボールを受けて前を向いた瞬間だった。右タッチライン際にポジションを取っていた内田が、猛然とスプリントを駆け始める。
試合前の言葉通りに縦ではなく斜め前へ、右角付近からペナルティーエリア内へ侵入するルートをたどりながらどんどん加速していく。そこへ寸分の狂いもなく、約30メートルはあった小笠原からの縦パスが入ってきた。
「試合前からずっと言っていたことなんですけど、ああやってボールが出てくるのはやっぱりすごいと思いますね」
トラップしながらさらに前へ抜け出した時点で、相手ゴールとキーパー松井謙弥の姿がはっきりと見えた。マークを受け渡すのか。あるいは、そのまま追走するのか。一瞬で生まれたアントラーズのチャンスに、ホーリーホックの守備陣が混乱をきたす。
最終的には対面にいた左サイドバック、田向泰輝が必死にアントラーズの「2番」を追った。間に合わないと察したのか。最後は背後から、一か八かのスライディングタックルを仕掛ける。
ペナルティーエリア内で激しく倒されたものの、主審のホイッスルは鳴らない。起きあがりざまに思わず苦笑いを浮かべた内田だったが、小笠原と久しぶりに開通させた“ホットライン”に感じた決して小さくはない手応えは、試合後に残した短い言葉のなかに凝縮されていた。
「まあ、(小笠原)満男さんとは(前にも)一緒にやっているからね」