眠れる才能を刺激したポチェッティーノとの出会い
こうして、14-15シーズンがやって来た……。
スパーズの新監督はマウリシオ・ポチェッティーノである。
「監督との出会いは間違いなく転機だった」とケインが語ったように、眠れる才能がついに刺激された。ポチェッティーノが着任するまで、スパーズは監督の人選でミスが続いていた。
レドナップは先述したとおりで、アンドレ・ヴィラス=ボアスは研究熱心だが理論が勝ちすぎ、なおかつ上から目線で選手から嫌われた。ティモシー・シャーウッドのノープランはデイビッド・モイーズ(現ウェストハム監督)と同等だ。
いずれもケインの魅力を引き出せるような器ではなく、練習内容も長い時間にわたる机上の空論に終始したり、すべてがアバウトだったり……。
しかし、ポチェッティーノのコンセプトは明確だった。
「練習内容は戦術理解度の向上を基本とし、短い時間でも密度が濃い。つねにボールを使い、プレー強度の高さも要求される。ときにはふたりのセンターバックと守備的MFの3人でゾーンの確認をすることもあれば、その組合せがサイドバック、ウイング、トップ下に代わるケースもあるから、同じ内容でも新鮮に受け取れる」(ヤン・フェルトンゲン)
スパーズの選手たちが、ポチェッティーノに心酔するまで時間はかからなかった。
そしてケインも、プレミアリーグでは14-15シーズンから3シーズン連続20ゴール以上を記録し、昨シーズンは29ゴールでついに得点王。2017年の総得点は56を数え、クリスチャーノ・ロナウド、リオネル・メッシをしのぎ、ヨーロッパ5大リーグで最多得点者の称号まで手にしている。
この事実を踏まえても、ケインは2014年にターニングポイントを迎えていた、と断言できる。ライアン・ギグス、ポール・スコールズ、デイビッド・ベッカムなどがサー・アレックス・ファーガソンの薫陶を受けて飛躍したように、ケインはポチェッティーノとの出会いで覚醒した。