「(齋藤)学の気持ちはわかりますから」
もっとも、マリノス側と交渉の席をもった昨年12月の段階では「正直な話、もともと(マリノスを)出る気はなかった」という。しかし、直後に状況が大きく変わる。
「いくつかのチームから話はもらっていたんですけど、けがをしている状況でも評価が変わらない、しっかりとしたオファーを(フロンターレから)もらったので。マリノスでサッカーを始めましたけど、僕は川崎市の出身。そこから少し揺さぶられた要因ではあるかな、と思っています。
どのようにしてそういう(移籍の)話になったのかは言えない部分が多いんですけど、最終的に周りがどうこうというよりは、自分にとって一番厳しい道を選ぼうと思いました。これだけ強く、ポジション争いが激しいチームで自分がチャンスをつかむ、挑戦するという意味でここだと」
新体制発表会見の出番を待つ控室で、フロンターレのユニフォームに袖を通しながら、大久保からおもむろに声をかけられた。
「お前、心は大丈夫か?」
バッシングのあまりの激しさを心配してのひと言だった。大久保自身、幾度なく批判やバッシングの対象となってきた。今回の異例ともいえるUターンを、快く受け止めないファンやサポーターがいることも覚悟しているとも明言した。
「もちろん批判されるでしょう。でも、関係ないですから。批判している人たちがオレの仕事をやってくれるのならいいけど、やるのはオレだから。17年もサッカー人生やっていますけど、ほぼ批判だったから。だから全然大丈夫です。覚悟はいつもできています。
というか批判を楽しんで、それを覆させるためにやっているから。それができるのは、批判されたオレたちしかできない。その先にいければ喜びというのが、普通の人よりありますからね。それをするためには努力が必要だし、練習に向き合う姿勢も変わってくる。幸せだと思っていますよ」
鋼のメンタルを武器にして、誰にも文句を言わせない金字塔を打ち立ててきたからこそ、サッカー人生で初めてといっていい逆風にさらされている齋藤をフォローしたかった。
「(齋藤)学の気持ちはわかりますから。あいつは『大丈夫です』と言っているけれど、そういうサポートをしていかないと。そういうのはオレ、慣れているから、助けてやらなきゃいけないと思っています」
前日20日まで宮崎・綾町で行われていた第1次キャンプで、大久保は至福の時間をすごした。とにかくたくさんボールに触れる。パスを出せば誰かがいて、自分が動けば誰かがパスを出してくれる。
中村や昨シーズンの得点王を獲得したキャプテン、FW小林悠との連係は問題なし。昨シーズンに加入した家長昭博や阿部浩之のプレースタイルも「もう、全然わかります」と無邪気に笑う。