4ヶ条からなる練習中の徹底事項
ワールドカップ・ブラジル大会による中断明けからチーム全体が右肩上がりに転じ、J1、ヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)、天皇杯を制した2014シーズン。宇佐美貴史とパトリックの2トップが注目されたなかで、ガンバの生命線を担っていたのは両サイドハーフだった。
右の阿部浩之と左の大森は、労を惜しまない運動量で攻守両面において奮闘。攻撃面では頻繁に最前線へ顔を出し、守備面ではサイドバックのカバーに奔走して両サイドを活性化させ、ハードワークを求める長谷川イズムの体現者となった。
一方で大金社長は今シーズンのテーマとして「一体感」を掲げ、J1に初めて昇格した2000シーズン当時のチームカラーながら、時間の経過とともにやや薄れつつあった「ひたむきさ、泥臭さ、チームのための献身的な姿勢」の三ヶ条を介して表現したいと力を込めている。
長谷川イズムの伝道者だけでなく、ここでも存在感が生きてくる大森は、2年ぶりに監督と選手として再会した指揮官の素顔を「雰囲気も練習中も、本当に怖いです」と苦笑しながらこう説明する。
「優しい感じで接してくれているときが、一番怖いんですけど。監督、多分僕のことをアホやと、コイツに戦術のことを言っても無駄やと思っているので、ホンマに『行け』と『やれ』しか言われたことがないんです。あとは『結果がすべてだ』と」
朴訥な口調でメディアの爆笑を誘った大森だが、要は単純明快な「行け」と「やれ」で意思の疎通がはかれる信頼関係が築かれているのだろう。ピッチのうえで実践することは、もちろん自己犠牲を厭わないハードワークに他ならない。
長谷川監督にとっては、嬉しい誤算もあった。大金社長との交渉の席で、よほどチームのぬるま湯体質を変えてほしいと懇願されていたのか。初めて自主トレを視察した段階から「もっとおとなしいのかと思っていた」と、苦笑いしながら偽らざる思いを打ち明ける。
「いい意味で裏切られましたね。初日から意欲的に練習していますし、その意味では今シーズンこそは変わらなきゃという思いが、選手たちのなかでも強いのかなと。自分一人ですべてを変えていくのは難しいけど、少しでも刺激になり、クラブ全体が変わろうとしている機運を持続させていきたい」
それでも甘さや緩さは散見された。だからこそ、新体制発表会に先駆けて行われた、今シーズンの初練習前に選手全員を集めて、4ヶ条からなる練習中の徹底事項を言い渡した。それは
【1】ガムを噛まない
【2】ソックスを上げるなど試合と同じ服装とする
【3】必ず返事をする
【4】早目に練習場へ来る
――いずれもプロ選手にあらためて言うことではないが、それらが徹底されていなかったのが昨シーズンまでのFC東京でもあった。