「優勝できるように全力を尽くしたい」
グラウンドの脇には、サポーターが手作りで用意したのぼりが掲げられた。白地にはこんな言葉が記されていた。
『篤人よ タイトル奪冠へ導いてくれ』
ドイツ時代を通じて、一人では何もできないことを内田は熟知している。だからこそ、安っぽい言葉は発しない。クラブだけでなく、地域全体が一体となって戦っていく姿勢を、熱狂的なスタンドの光景が脳裏に焼きついているシャルケ時代の記憶に求めた。
「タイトルを絶対に取れるとは約束できないけど、それでも優勝できるように全力を尽くしたい。シーズンが始まればもっと難しさを痛感すると思うけど、だからこそスタジアムで一緒にいい雰囲気を作ってほしい。サッカー選手は、いい雰囲気のなかでプレーするのが一番幸せなので」
自身と25歳のディフェンスリーダー・昌子源らの、ちょうど中間にあたる世代の満を持しての帰還を、小笠原も短い言葉で歓迎した。
「鹿島が大好きで、ものすごい経験もしている選手なので。ここから何が始まるか楽しみです」
ヨーロッパはシーズンの真っただ中だったから、コンディションはすこぶる良好だ。はやる気持ちをむしろ抑えながら、内田は静かに開幕への準備を整えていく。
(取材・文:藤江直人)
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