悲願の初優勝で輝いた兄弟の絆
迎えた2年連続の決勝戦。反対側のブロックではリベンジを期す青森山田が長崎総科大附に敗れ、その長崎を下したインターハイ王者・流通経済大柏が勝ち上がってきた。昨夏は準決勝で屈している前橋育英は、キックオフ前にモチベーションビデオを見て闘志を高めた。
「青森山田戦も含めて、いままで前橋育英が準決勝で負けたビデオを見て、先輩たちが成し遂げられなかったことを成し遂げよう、歴史を変えようと。奮い立ちました。自分としてはリュウケイが勝ち上がってくると思っていたので」
涼がボランチ、悠が右サイドで先発し、試合終了を告げる笛もピッチで一緒に聞いた。榎本の決勝弾につかながる縦パスを供給するなど、存在感を放ち続けた弟のすごさを悠はあらためて実感した。
「セカンドボールを拾えるところと、苦しいところでも声を出せる。涼は人間性もあるので。リュウケイに攻め込まれても声を出して、からしても出し続けていたので。こういうやつがいるのはチームにとって助けになるというか、本当に心強いと思いました」
高校サッカーを大団円で終えたいま、2人の関係はチームメイトからライバルに変わる。悠は早稲田大学へ、涼は大会得点王の飯島陸とともに山田監督の母校でもある法政大学へ進学。関東大学サッカーリーグで、サッカー人生で初めて敵味方になる。
「違和感ですか? 最初はあるかもしれないけど、いいライバルとしてやっていければ。僕自身は大学での4年間をへてプロになりたいと思っているので」
悠が視線を未来に向ければ、ここでも以心伝心と言うべきか、涼も同じニュアンスの思いを残した。
「少し寂しい気持ちがあるし、このまま一緒に続けたいと思ったこともありますけど、仕方のないことなので。有終の美を飾れたというか、最後の大会で日本一を取れたのは嬉しかった。悠とは初めて対戦相手になるので、倒したいですね」
優勝が決まった直後。笑顔よりも涙をあふれさせた前橋育英の選手たちのなかで視線を合わせた2人は、ほんの一瞬ながら、短い言葉を交わしたと悠が照れながら明かしてくれた。
「ここまで来るのは本当に長かったけど、この景色を見たかったんだよなと言いました」
バックスタンドで応援していた仲間たちの弾けんばかりの笑顔。優勝監督インタビュー中にお立ち台で涙を流した山田監督。そして、手にした黄金色のメダル。21回目の出場にして悲願を成就させた前橋育英が、1年前のどん底からはい上がってきた軌跡が、田部井兄弟の絆をさらに輝かせていた。
(取材・文:藤江直人)
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