準々決勝と準決勝で欠場を強いられた涼
すすんで嫌われ役に徹する弟を、悠は陰ひなたで支えてきた。前橋育英の部員数は総勢159人。当然ながら監督やコーチだけでなく、涼や塩澤でもフォローできないときがある。
「いろいろなタイプの選手がいるので、みんなの意見を反映させようと涼とよく話していました。選手だけでミーティングするんですけど、トップにからんでいない選手の意見も絶対に知る必要があるので。涼やシオだけではまとめられないので、そこは自分が反映させるようにしてきました」
ピッチのなかでも弟をフォローした。セットプレーのキッカーは左利きの涼が務めてきたが、左足の内転筋に痛みを覚えることが少なくなかった。3年生に進級する直前になって、自分もキッカーを担いたいとコーチ陣を介して山田監督に訴えた。
「これだけは覚えていてほしいんですけど、涼のほうがはるかにキックは上手い。ただ、涼が右左を蹴っちゃうと足が痛くなるので、それで涼の代わりは自分しかいないと。自信はなかったけど、この1年間、キックの練習はすごくやってきた。積み重ねたものは決勝の舞台でも通じたと思います」
たとえばコーナーキックは、左が右利きの悠が、右は涼が務めた。サッカーで双子、それも利き足が異なれば人気サッカー漫画『キャプテン翼』の立花兄弟をほうふつとさせる。小学校3年生から常に同じチームでプレーしていきただけに、「よく言われました」と悠も苦笑いする。
「ツインシュートを打って、とも言われましたけど、さすがに無理ですよね」
スーパープレーはできなくても、お互いの心をくみ取ることはできる。前回大会の決勝戦は、先発した悠がベンチへ下がった後に涼が投入されるすれ違いで終わっている。今大会も富山一との3回戦で右ひざを打撲した涼が、準々決勝と準決勝で欠場を強いられた。
「涼は『決勝は出られる。頼む』と言っていた。僕自身も間に合うと思っていたので心配していなかったし、逆に自分がチームを決勝まで引っ張る、涼を決勝の舞台に立たせると思ってプレーしていた」
キャプテンを欠いた2試合を悠が振り返れば、涼もチーム全体のアシストに感謝する。
「メンバーに入っていない選手たちも『大丈夫か』と心配してくれた。だからこそ、自分のメンタルのなかでけがをしたことに対する悔しさ以上に、感謝の思いが占めていた」