以心伝心か、2人が残した同じニュアンスの言葉
双子ゆえの以心伝心と言うべきか。悲願の初優勝を勝ち取った余韻が色濃く残る試合後の取材エリアで、前橋育英の中盤を支えた田部井兄弟は図らずもほぼ同じニュアンスの言葉を残している。
表彰式後後に始まった、指揮を執って36年目になる山田耕介監督の歓喜の胴上げ。2009年のインターハイ初優勝時は試合内容の悪さに不機嫌だった指揮官に誰も近寄らず、胴上げがなかった歴史を知っていたキャプテンの田部井涼が「監督が逃げられないように囲め」と音頭を取った。
一度、二度、三度と今年度から校長も務める恩師を埼玉スタジアムの宙に舞わせた涼は、感無量の思いを胸中に募らせていた。
「何で(結果が)出ねえんだと、監督自身もいつも言っていた。こんなに素晴らしい監督なのにと、自分たちも思っていた。自分たち以上に悔しい思いをして、苦労してきた監督を自分たちの代で胴上げできたのは、本当に嬉しかったですね」
副キャプテンとして弟の涼をサポートしてきた田部井悠も笑顔を浮かべながら、胴上げを通じて両手に残る山田監督の重さをかみしめていた。
「自分も思わず泣きそうになったというか。ずっと悔しい思いをしてきた監督を、胴上げできたことが本当に嬉しくて。今回の選手権が始まる前から最後は監督を胴上げして、本物の男にしようとみんなで話していたので」
群馬県勢としても初優勝という前橋育英の笑顔を歴史に刻んで、8日に幕を閉じた第96回全国高校サッカー選手権大会。歓喜のドラマのプロローグはちょうど昨年1月9日、舞台も同じ埼玉スタジアムで幕を開けていた。
ともに初優勝をかけて激突した、青森山田との決勝で一敗地にまみれた。敗戦はもちろんのこと、大量5ゴールを奪われ、攻めては1点も奪えなかった完敗に誰もが打ちひしがれた。