前橋育英を選手権初制覇に導く劇的な決勝ゴールを挙げたFW榎本樹
第96回全国高校サッカー選手権大会の決勝が8日に行われ、千葉県代表の流通経済大柏に1-0で勝利した群馬県代表の前橋育英が大会初優勝を遂げて幕を閉じた。
決勝点が生まれたのは後半アディショナルタイムに入った92分のことだった。序盤から互いに譲らないギリギリの戦いを続けてきた中、最後にこぼれ球を押し込んだのは前橋育英の2年生FW榎本樹だった。
今大会、決して目立つ活躍を披露してきたわけではない。7ゴールを奪って得点王に輝いた相方・飯島陸がまばゆいばかりの輝きを放つ一方で、すべての試合に先発出場していた榎本が準決勝までに挙げたゴールはわずかに1つだけ。夏のインターハイ得点王は決勝の舞台で溜まったものを全て爆発させた。
「ゴールを決める気持ちが強かったので、それが実った。嗅覚というか、感覚であそこにいたと思いますし、日々やってきたことが少なからずここに繋がったのかなと思います」
もはや「得点シーンは嬉しすぎてあまり覚えていない」とも語る榎本だが、昨年0-5で大敗を喫した青森山田との選手権決勝はスタンドから声援を送ることしかできなかった。それでも「自分もすごく悔しくて情けなかった」といい、「この借りを今年返そうと思っていた」とも語る。
2年生ながらレギュラーとして起用されていることからも分かる通り、周囲からの期待は大きい。キャプテンの田部井涼も榎本の才能を高く評価する1人で、「(榎本は)Bチームにいた時から突き抜けたものがあった」と証言する。ただ、問題はピッチ外にあった。
榎本は「よく試合中にシャツの裾を出す」と田部井は指摘する。遅刻などもあり、ピッチの外の行動に若干のルーズさが見られたという。だが、「そういうところが抜けていると点は取れないので、そこは樹には人一倍厳しく言ってきました」とキャプテンは期待しているからこそ、後輩に私生活を正すことの重要性を説き続けた。
それに呼応するように、榎本の意識も変わりつつある。
「私生活がサッカーにつながるというのはすごく言われていましたし、実際それは感じていたので、やっぱり先輩の言うことは正しいと思っていました。そこを変えたことによってこういう結果にもなったので、今度は自分が最高学年になって後輩に教えられたらいいなと思います」
田部井は「点を取ることもそうですけど、周りを生かす能力が格段に上がった」と榎本の成長を実感している。そして「ゴールで(チームを)引っ張っていって欲しい」「あいつには一番期待している」と特別な思いを抱いていた。
前橋育英を歓喜の表彰台へと導いたストライカーは、自らのゴールについて「たまたま」と繰り返していた。だが、それは自分を変えようと日々努力を積み重ねてきた者へのごほうびだったのかもしれない。青森山田も成し遂げられなかった連覇を目指す2018年は最高学年になってチームを引っ張っていく立場になるだけあり、榎本は先輩たちの意志を継ぎ、すでに強い思いを胸に秘めているようだった。
「監督を日本一の男にしたかったので、できてよかったですし、監督もすごく嬉しかったと思う。来年も日本一とれるようにやっていきたいです。(田部井)涼さんみたいに声で引っ張っていくタイプではないと思うので、自分はプレーで引っ張っていければいいなとと思います」
(取材・文:舩木渉)
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