「今後もサッカーに携わる仕事をしていきたい」
ガンバでは10シーズンを過ごし、2014年には地元のジュビロ磐田へ移籍。翌2015年には再びガンバに戻ってきた。その時点ではジュニアユース出身の現日本代表守護神・東口順昭が君臨していて、藤ヶ谷がピッチに立つ機会はほとんど訪れなかった。冒頭の現役最終ゲームもベンチでタイムアップの瞬間を迎えた。それでも彼自身は19年間を完全燃焼したという思いが強いようだ。
「本当に19年間多くの人に支えられて僕はここまでやって来れたと思っています。本当にみなさんには感謝の言葉しかありません。また、今後もサッカーに携わる仕事をしていきたいと思っているし、その予定でもあるので、また今後ともよろしくお願いします」と藤ヶ谷は浮き沈みの多かった19年の現役生活を糧に、新たな人生に踏み出すつもりだ。
同じ日に現役を退いた石川も「フジさんには『さよなら』は言わなかった。『また会いましょう』と前向きな挨拶をしました」と語ったが、同じ世代の盟友は違った形でサッカー界に貢献していくことになる。
ともに16年前のワールドユースに出場した羽田憲司(鹿島コーチ)、池田昇平(ファンルーツアカデミーコーチ)、森崎浩司(広島アンバサダー)がすでに引退し、同じタイミングで平本一樹(東京V)もピッチを去ることになるなど、「谷間の世代」と言われた人々が年々少なくなっていくのは寂しいことだが、藤ヶ谷もガンバのスタッフとして後進の育成に力を注いでいってくれるだろう。
彼のように黒子の時代が長かった選手は優れたGKを育てられる可能性が高いのではないか。性格的にも前向きで穏やかで、辛抱強さも併せ持つタイプだけに、指導者に適した人材なのは間違いない。
日本にはGKコーチがまだまだ少ないだけに、自らが立てなかったワールドカップの舞台に行けるような選手を育てることができれば理想的ではないだろうか。いつの日か藤ヶ谷陽介にはそんな存在になってほしいものだ。
(取材・文:元川悦子)
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