「俊さんには『もっと練習しろ』って毎日言われる」
そんな川又の運命を変えたのが、今季のジュビロ磐田移籍だ。名波浩監督は川又や若い小川航基といった日本人FWを育てるべく外国人FWに頼らない選手起用を第一に考えた。それはかつて中山雅史(沼津)、高原直泰(沖縄SV)、前田遼一(FC東京)といった日本人得点王を次々と輩出してきた名門クラブの意地なのだろう。
若い小川がU-20ワールドカップ(韓国)で大ケガを負ってからは、磐田の最前線を担えるFWは事実上、川又1人。彼が絶対的な得点源になってくれなければ、チームは不振に陥りかねない。だからこそ、名波監督も、新戦力の大ベテラン・中村俊輔も、28歳の未完の大器に厳しいアプローチをし続けた違いない。
「俊さんには『もっと練習しろ』って毎日言われるんだから。飯食いに行っても言われる。『動けよ』って。怖いんじゃなくて、愛があるんだけどね」と川又は冗談交じりにコメントしていたが、かつて日本代表のエースナンバー10を背負った2人から厳しい要求を突きつけられれば、サッカー漬けになるしかない。
全体練習が足りなければ、自主トレもこなし、休日にも都内のジムで肉体改造に努めるほど、ストイックに上を上を目指し続けた。それが今季の14ゴール、そして今回のE-1選手権での大きなインパクトにつながっている。
「確かに堅碁はジュビロに来た頃、ボールが収まらない印象があったけど、今年のチームでの活躍で自信をつけたと思う。代表でも存在感を出して、クラブと同じような自信をつければうまく定着できるんじゃないかな。もともとタテには速い選手だから、その能力を周りにうまく生かしてもらえるようになったら面白い」と8月までともに磐田でプレーしていた松井大輔(オドラ・オポーレ)も前向きに評していただけに、ロシアへの滑り込みもなきにしもあらずなのだ。
ただ、韓国戦でゴールという明確な結果を残せなければ、代表定着も、ロシアワールドカップという4年越しの夢も現実にはならない。次の韓国戦は川又にとってサッカー人生を賭けた正念場に他ならない。
「海外のFWではレバンドフスキ(バイエルン)とジエゴ・コスタ(アトレティコ・マドリー)に興味津々だね」と少し前に話していた28歳の点取り屋が世界の大舞台で本物のレバンドフスキと対峙するためには、最終登録メンバー23人の座を勝ち得るしかない。それが叶うか否か。16日の大一番が楽しみだ。
(取材・文:元川悦子)
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