「無駄なシーズン、無駄な試合なんてなかった」
今シーズンのリーグ戦で、川辺は得点・アシスト合計『10』を目標にしていた。最終的に4度ネットを揺らし、味方のゴールも5回演出した。惜しくもあと1点届かなかった。だからといって、目を見張る働きを見せた川辺の価値に傷がつくことはない。
そんな22歳に期待をかけるのが中村俊輔だ。
「自信というか自覚が出てきて、体が勝手に動いているという感じ。それが確信になって、代表をもっと意識すると、もう一皮、二皮向けると思う。そういうところも見てみたい」
広島から磐田に来た時、川辺はまだ19歳だった。「10代の終わりから20代前半という一番大事な時期に、プロとして当たり前のことを学べた」と、真剣な眼差しをこちらに向ける。
「広島にいても学べることはもちろんあったと思うし、ある程度選手が固まった強いチームの中で成長するというのも一つではある。でもそうじゃなくて、(J2からJ1へと)成長していくチームでプレーさせてもらえたので、良かったと思う。
この3年間、無駄なシーズンなんてなかった。1年目はJ1に昇格しなきゃいけないプレッシャー、去年は残留のプレッシャーの中でプレーできた。今年は上位争いができて、無駄な試合というのも本当になかったし、それはチームとしても個人的にも非常にいいことだと思う」
例えば広島はポゼッション主体のサッカーが染みついている。今シーズンは残留争いに巻き込まれたが、ボール保持力は降格の危機に瀕したチームのそれではなかった。一方で磐田はショートカウンターが主な武器だった。
ボールを持ちながら少しずつ試合をコントロールできるようにもなったが、最も力を発揮した形は堅守速攻だ。広島とは異なるスタイルの中に身を置き、得たものは間違いなくある。サックスブルーでの日々に川辺は意味を見出している。
「確かにあまりボールは繋げなかったけど、そういうチームでプレーすることも必要だと思えた。自分の上をボールが行き来するサッカーもどこに行ってもあるわけで。
どんな戦い方にも対応できると今は思っているし、フォーメーションやサッカーの内容、環境とか変わっても色々できると思うので。プロとして当たり前かもしれないけど、そういう部分がちゃんと身について、土台ができたんじゃないかなと」