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Jリーグ 7年前

川辺駿、磐田で残した103試合の軌跡。名波ジュビロでの3年経て「完成形」へ

text by 青木務 photo by Getty Images

今夏に覚醒。中村俊輔との関係性

ジュビロ磐田の名波浩監督
ジュビロ磐田の名波浩監督【写真:Getty Images】

 実はこの3年で、名波監督は何度か川辺を叱責している。今シーズンもある試合の前半で緩慢なプレーを見せた背番号40に対し、ハーフタイムに「過去最高くらい」の雷を落としたという。

 だが季節が春から夏へと向かう頃、変化が起き始めた。特に中村俊輔との関係性が整理されたことで迷いのようなものが消え、自身の武器を遺憾なく発揮するようになった。

 1月のチーム始動からしばらく、名波監督はボール回しなどのメニューで2人を同じ組に入れなかった。一緒にプレーすることで互いの特徴を把握し、コンビネーションを醸成させるのは一つの手であり、近道だろう。だが、名波監督はあえてそれをしなかった。川辺が自発的に中村俊輔を観察し、そこで得られるものに期待していたからだ。

 天才レフティーも「名波さんの練習メニューでは僕と駿はあまり一緒になることもない」とした上で、こう続ける。

「試合になった時に、お互いにグラウンド上の距離が近すぎてもダメ。そういう距離感は保っている。(川辺は)サッカーIQが高いし、僕が言い過ぎても良くない。いいパスとか抜けた時とかだけ『ナイス』と褒めている。伸びる奴は勝手に伸びるので」

 時間は要したが、それが結実すると多くの場面で彼らがプレーで関わるようになった。7月のある日、名波監督はこう話している。

「駿は今、覚醒している。4月、5月くらいまで俊輔と駿が合わなかった。どこでどのタイミングで、というのがわからないから。それが徐々にわかってきた」

 2人のプレーイメージが共有され始める中、指揮官は川辺の変化を感じ取っていたようだ。

「駿は元々、自分で前を向きたいからパスを戻さない。だから出しても戻ってこないと思ったら(俊輔は)出さなくなるよね。ところが今は、俊輔が出したら駿は戻すようになってきている。しかもすぐ出てくるようになった。お互いの特徴をよく理解しあっているということ」

 試合中、2人の間をボールが行き来する場面が増え、直接的なパス交換だけでなく彼らの間に味方を経由することで、チャンスが生まれるシーンも多くなった。第5節・清水エスパルス戦、5-2で勝利した第19節・川崎フロンターレとのアウェイゲームでは、中村俊輔のパスを川又堅碁が巧く落として川辺がゴールを奪った。

 また、第16節・FC東京戦では齊藤和樹を挟んで抜け出した川辺が、スルーパスからアダイウトンの得点を演出した。この場面について名波監督はこう振り返っている。

「パスを出したらボールが戻ってくるという信頼のもとで出て行けているし、あのゴールも最初、俊輔から直接もらうつもりで動き出したと思う。でも俊輔が1個タメてから和樹を使ったことによって、より時間ができて駿がフリーでもらえた。

 俺がいつも言っているのは、入りすぎないようにと。前に行きたい奴は入りすぎちゃうから。入り過ぎてダメだと思った地点でボールをもらうでしょ。それだと相手を背負った状態になる。いい時の駿は前向きに運べる状態でもらう。その差は歴然だから。背負っていたらできることは限られるけど、ちょっと半身で受けたら視界が一気に広がる。その光景の明るさたるや」

 中村俊輔という圧倒的な存在を触媒に、川辺はプレーヤーとして一段上のステージに進んだと言えるだろう。

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