ベンチで試合を見つめながら抱いていた「ある決意」
神懸かり的なビッグセーブを連発していた守護神・中村航輔が相手のシュートを両手でキャッチした瞬間、カウンターに対応して素早く帰陣していたFW伊東純也はすぐ目の前にいた。
わずか数秒後。ともに柏レイソルでプレーする2人によるホットラインが開通する。中村が思い切りボールを投げた先は右タッチライン際。すでに加速する体勢に入っていた伊東が標的だった。
9日に味の素スタジアムで開幕したEAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表との初戦はともに無得点のまま、時計の針は残り1分を切ろうとしていた。
MF高萩洋次郎(FC東京)との交代で56分にピッチへ投入され、国際Aマッチデビューを果たした伊東は、それまでの戦況をベンチで見つめながら「ある決意」を抱いていた。
「自分がボールをもったら仕掛けようと思っていた。とりあえず縦に行こうと意識していました」
そのハイライトが89分に飛び出したビッグプレーとなる。自陣のほぼ中央で中村からあうんの呼吸でボールを受けると、スピードをどんどん上げながら得意のドリブルを開始する。
右タッチライン際を縦に駆け抜けていけば、自身の右側には北朝鮮の選手は誰もいない。左側から距離を詰めてくる相手だけをケアしながら積極果敢に、行けるところまでボールを持ち運ぶ。
止まる気配のないドリブルに、慌ててMFカン・グクチョルが対応するも追いつけない。間合いを詰めようとすれば、さらに伊東が加速する。並走したまま、ついにはゴールラインが見えてきた。
最後は伊東が放ったクロスを、グクチョルが何とか体に当ててクリア。コーナーキックに逃れるのが精いっぱいだった。約60メートルを駆け上がった独走劇に、スタンドも一気にヒートアップした。
低い位置でブロックを形成し、カウンターを仕掛ける北朝鮮に押し込まれる展開が続いた。最初の交代カードとして起用された伊東へ、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が与えた指示は単純明快だった。
「低い位置だと裏を狙えと言われますけど、アタッキングサードまで行ったら自由にやっていいという感じだったので。少しは自分のよさを出せたかな、と思っています」