成長の跡が凝縮された3点目
時間にして13秒。その間に延べ8人の選手がプレーに絡み、最後はキャプテンのFW小林悠が鮮やかなスライディングボレーを叩き込んだ大宮アルディージャ戦の3点目に、川崎フロンターレが今シーズンを戦いながら遂げてきた成長の跡が凝縮されていた。
大宮アルディージャをホームの等々力陸上競技場に迎えた、2日の明治安田生命J1リーグ最終節。自陣深くから出された相手の縦パスを、競り合ったFWマテウスに何ひとつ仕事をさせることなくDF谷口彰悟がはね返す。この時点で時計は58分48秒を指していた。
前線へ送られた浮き球をMF茨田陽生と競り合いながら、MF中村憲剛が右足によるワンタッチパスで前方の小林へ通す。相手に囲まれながらも確実にボールを収めた小林は、右へポジションを移していた中村へボールを預ける。
中村には茨田、センターバックの高山和真、左サイドバックの和田拓也の3人が引きつけられる。さらに中村の右側を、DFエウシーニョがトップスピードでオーバーラップしていく。アルディージャの選手たちのほとんどが、中村とエウシーニョの動きに目を奪われていた。
相手の心理状態を見越した中村が、すかさず逆を突く。ボールをキープしながらくるりと反転して、左サイドで誰にもケアされていなかったMF阿部浩之へパス。このとき、MF家長昭博が相手ゴールに背を向けた状態でさらに左側へ、右手でスペースを指さしながら走り出していた。
アルディージャの陣形はすでに崩れかかっていた。右サイドバックの奥井諒が阿部の、センターバックの山越康平がパスを受けた家長を慌ててケアするも、ともにワンテンポずつ遅れてしまう。
「スペースへ抜けたらパスを出してくれたので、あとは自分の判断で上げました」
ゴールから遠ざかるコースを走りながら、体を強引にねじるかたちで家長が利き足の左足を振り抜く。自身と最終ラインの間を狙われた低く速いクロスに、アルディージャのGK加藤順大は飛び出せない。この間、家長がゴール前を見たのはほんの一瞬だけだった。
「普段練習でやっていることが試合で出た感じでしたね。あまり見ていなかったですけど、信じてクロスを送りました」