ベンチから選手が出てきた瞬間にわかったその意味
時計の針が51分を回った直後に、途中出場のMF長谷川竜也がカウンターを発動させる。ボールをキープする考えなど毛頭ない。ハットトリックを達成し、得点王争いで単独トップに立っていたキャプテンのFW小林悠もフォローしていく。
そして、長谷川が左足で5点目をゲット。すでにJ2への降格が決まっている大宮アルディージャを攻守両面で圧倒し、完璧な勝利をあげた直後にスタジアムの雰囲気が急変する。
「ベンチから選手たちが出てきた瞬間に、意味がわかったので。ファンやサポーターもすごくわいていたし、もう誰かに駆け寄るとかではなくて、気がついたら突っ伏していましたよね」
敵地でジュビロ磐田と戦っていたアントラーズが、スコアレスドローに終わったという吉報を、ほんのわずかながら遅れて共有できた。控えゴールキーパーの新井章太が、雄叫びをあげながらピッチに入ってきたことは覚えている。
「多分あれは新井だと思う。その後は未確認です。人の感情が爆発する瞬間というものが、等々力でもいままでたくさんありましたけど、そのなかでも一番大きかったんじゃないいかと。みんなの笑顔の連鎖による、目に見えない大きなパワーがピッチのうえで見えましたから。
今年だけでも悔しい思いを2回させているし、去年もチャンピオンシップ準決勝で負けた。みんなすごく悔しいパワーを溜めていたと思うので、その爆発力たるや、数字では換算できないと思います。みんなピッチに入ってくるんじゃないか、というくらいの喜び方だったので」
その後の記憶はしばらく途切れている。正確に言えば、ピッチの芝生の感覚しか記憶に刻まれていない。こんなにも涙が出てくるのか、と驚くほど泣いた。ピッチに突っ伏したまま、顔を上げることすらできない。新たな発見があったと、フロンターレひと筋で15年目のバンディエラは照れ笑いする。
「人は泣くと動けなくなるらしいですね。何であんなに突っ伏していたか、自分でもよくわからない。悔しかったこととか、自分がやってきたことすべてが走馬灯のように流れていた気がする。本当に長かったし、ホームで決められたのがすごく嬉しい。もう涙は出し尽くした。あとは笑顔しかないよ」