「残り2、3分くらいからもう半泣き状態でした」
8年前とは明らかに様子が異なっていた。川崎フロンターレが4点をリードしたまま突入した、5分間の後半アディショナルタイムも残りわずかとなった。勝利を確信した川崎フロンターレの大黒柱、37歳のMF中村憲剛は自軍のベンチへ視線を送っている。
2009年12月5日にも、同じシチュエーションの中にいた。冷たい雨が降り続いた日立柏サッカー場のピッチ。柏レイソルに追い上げられながらも、前半のうちにあげた、自身のゴールを含めた3点のリードを必死に守り切り、勝利を収めた瞬間のベンチに違和感を覚えた。
「あのときはベンチで誰も喜んでいなかったからね」
8年前は15時半に最終節がキックオフされた時点で、首位・鹿島アントラーズを勝ち点差2ポイントでフロンターレが追走していた。得失点差では後者がわずかにリード。つまりフロンターレが勝利を収め、アントラーズが引き分け以下ならば逆転できた。
人事は尽くした。しかし、天命が訪れなかったことは、リザーブの選手たちの意気消沈した表情が如実に物語っていた。埼玉スタジアムで行われた浦和レッズ戦で、アントラーズは後半21分にあげた値千金のゴールを死守し、前人未踏の3連覇を達成していた。
そして、2日に行われた明治安田生命J1リーグ最終節でも、歴史が繰り返された。14時のキックオフ時点で、首位・アントラーズと2位・フロンターレの勝ち点差は2ポイント。違っているのは、後者がホームの等々力陸上競技場で戦っていることだった。中村が続ける。
「向こうの得点経過はわからなかったけど、残り2、3分くらいからもう半泣き状態でした。ベンチがそわそわした状態だったので、この後に何が待っているのかを考えたらちょっと……」