端正なマスクにみなぎった怒気
端正なマスクに怒気がみなぎっている。眉間にしわを寄せた川崎フロンターレのDF谷口彰悟が右手を振りあげ、鋭い視線を前方の左サイドへ送りながら激しく怒鳴り声をあげた。
映像で確認した口の動きから察するに、川崎フロンターレの最終ラインを束ねる26歳の副キャプテンは、こんな言葉を発していたはずだ。
「何やってんだ、こらっ!」
浦和レッズがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝を戦った関係で、1試合だけ11月29日に分離開催された第33節。フロンターレが引き分け以下に終わった時点で、試合のない鹿島アントラーズのJ1連覇が決まる大一番で、決定的なピンチを招いたのは後半32分だった。
最終ラインに下がったMFエドゥアルド・ネットからボールを受けた谷口が、左タッチライン際にいたMF阿部浩之へパスを送る。そして、阿部が前方にポジションを取っていた、左サイドバックの車屋紳太郎にボールを預けた直後だった。
狙いを定めていたのか。車屋の後方にいたレッズの右サイドバック、森脇良太が死角の位置から入り込んでくる。簡単に失われたボールはMF武藤雄樹を介して、再び森脇のもとへ。この時点で、攻撃から守備への切り替えがワンテンポ遅れていた。
真っ先に森脇へプレッシャーをかけるべき阿部の寄せが甘い。視野を十分に確保した森脇は阿部をブロックしながら、左足で縦パスを前線へ送り込んだ。あうんの呼吸で、ワントップのズラタンが最終ラインの背後に抜け出していた。
谷口との距離は約5メートル。センターバックを組む奈良竜樹も慌ててカバーリングに走る。一方では前方へ大きくポジションを取っていた、右サイドバックのエウシーニョは戻り切れていない。ゆえに広大なスペースが、フロンターレから見た右サイドには広がっていた。