飛び級のJFL昇格を逃すもロードマップは変わらない
別の機会に譲るが、「日本のフィジカルスタンダードを変える」を合言葉に、徹底したストレングストレーニングを積んでいるいわきFCの選手たちは、コンサドーレやエスパルスのJ1勢にも力負けはしなかった。ゆえに7部相当の福島県社会人リーグ1部では実力差が歴然だった。
それでも、勝たなければ上のステージへは進めない。「相手チームをリスペクトしてますし、失礼のない意味で捉えていただきたいのですが」と前置きした上で、田村監督は思いついた苦肉のアイデアをこう説明する。
「最後のほうでは『試合もフィジカルで追い込む』と選手たちには言いました。相手にパスを5本以上つながせないとか、あるいはGPSを装着したカタパルトをつけて試合をすることをリーグに認めてもらって、試合中の走行距離や時速24キロ以上のスプリントの回数、脈拍数などの数字を取るとか」
2018シーズンを戦う舞台となる東北社会人2部南リーグでも、もしかすると同じような状況が生まれるかもしれない。それでもステージをひとつひとつクリアした先にJFL、そしてJリーグ昇格が描かれるロードマップは変わらない。
「正直に言えばJFLには上がりたかったけど、この先何十年もいわきFCというクラブが続いていくうえで『あの年はチャンスがあったけど、ちょっとダメだったんだよね』と振り返れるのも歴史なのかなと。僕に課された土台作りで何が大事かという意味では、ぶれずにできたのかなと思います」
選手たちが味わわされた悔しさに理解を示しながらも、田村監督は「魂の息吹くフットボール」を貫いた1年間への手応えを深める。もちろん、大倉代表取締役も思いをシンクロさせる。
「いわき市を東北一の都市にする、という夢がある以上は、東北社会人リーグをしっかりと通るべきだという考えが僕のなかにある。いわきFCの存在価値をどれだけ広められるか、という意味で東北社会人リーグも最高の舞台なんです。そのうえで、ちゃんとJFLに上がるというだけの話なので」
ひとつひとつカテゴリーを上げていけば、最短で2023年にはJ1に昇格できる。しかし、結果として華やかなスポットライトを浴びたとしても、目的を成就させたことにはならない。
54を数えるJクラブとは、明らかに一線を画す3つの夢をかなえるために。ビジョンに共感して門を叩いた若い選手たちの肉体を、これもJリーグでは導入でいない規格外の筋力トレーニングで徹底的に改造しながら、いわきFCは一歩ずつ、ゆっくりと前進していく。
(取材・文:藤江直人)
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