引いて守って勝っても「クラブの歴史的に何も残らない」
田村監督は名門・帝京高校から中央大学をへて、2005シーズンにベルマーレに加入。当時の強化部長が大倉代表取締役であり、両ひざの故障もあって2010シーズン限りで現役を退いた後は強化部スタッフとして大倉氏をサポートしてきた。
そして、いわきFCの強化・スカウトのトップに就いた田村本部長も、公認指導者ライセンスはB級しか取得していなかった。経営と現場を一体化する意味で総監督に就いた大倉代表取締役は「僕は何もやっていないし、総監督はもう辞任します」と苦笑いしながら、田村監督のもとで戦ってきた2017シーズンを評価する。
公式戦の成績は31勝2敗。黒星は天皇杯でエスパルス、全社でアミティエに喫したものだ。衝撃を与えたコンサドーレ戦を含めて、引いて守ってカウンターという堅実な戦い方では臨まなかった。
「攻めれば攻めるほど失点する、負ける確率が高くなることは僕自身もわかっていました。引いて守るサッカーなら全社でも勝てていたかもしれないけど、それで勝ってもクラブの歴史的に何も残らない。選手たちには『攻めなくちゃ面白くない』と言ってきたし、点を取りに行く練習しかしませんでした」
初めて指揮を執った1年間を振り返った田村監督が最も苦労したのが、福島県社会人リーグ1部に臨むうえでの、選手たちの動機づけだった。結果から先に言えば10戦全勝。2桁得点を奪い、相手を零封する試合も珍しくない異次元の強さを発揮し続けた。
「県リーグの試合へ向けたメンバー選考と、試合前のミーティングが一番難しかったですね。言葉は失礼かもしれないですけど、普通に正当なプレーをしていても相手にけがをさせちゃうかもしれない。一生懸命いけと言っても、選手たちも何となく力をセーブしてしまうというか」