ACL優勝後、頂点が見えかけては遠ざかる状況が続いた
2007シーズンにACLを制して以来、レッズはタイトルから遠ざかっていた。ちょうど阿部がジェフユナイテッド千葉から完全移籍で加入したシーズン。セパハン(イラン)との決勝第2戦では、腰痛を押して強行出場し、試合を決める2点目を叩き込んでいる。
しかし、頂点が見えかけては遠ざかる状況が続いた。2013シーズンのJ1は最後の3試合ですべて大量失点を喫し、3連敗とともに優勝争いから脱落して6位にまで転落した。1‐3で敗れた川崎フロンターレとの第32節、2‐5と惨敗した最終節の舞台は、ともに埼玉スタジアムだった。
2014シーズンは勝てばJ1優勝が決まる第32節でガンバ大阪に屈し、最終節でも名古屋グランパスに逆転負け。くしくも同じ埼玉スタジアムで喫した2つの黒星が大きく響き、結果としてガンバの逆転優勝をアシストするかたちとなった。
ショックを引きずるかのように、2015シーズンは水原三星(韓国)とのACLグループリーグ初戦、ガンバとのゼロックス・スーパーカップと連敗。さらにACLグループリーグでブリスベン・ロアー(オーストラリア)にも苦杯をなめた3月4日の夜に、阿部はある行動に出ている。
「まず勝たなきゃだめなんだよ! オレたちやるから! だから一緒に闘ってよ!」
埼玉スタジアムには失望感が充満し、ゴール裏のスタンドを赤く染めたファンやサポーターからはブーイングや厳しい言葉が浴びせられていた。試合後の挨拶を終えて、ロッカールームへ戻ろうとしていた選手たちから離れた阿部はゴール裏のスタンド前へ向かった。
「とにかく、1勝しなきゃ始まらないんだよ! 次は絶対に勝つから!」
声が届かないと感じたのか。スポンサーボードを乗り越え、スタンドの真下まで移動した阿部は涙で両目を潤ませながら、右手の人さし指を立てながら思いの丈を熱く訴えた。
人さし指には「1勝」だけでなく、「ひとつになろう」という思いも込められていたのだろう。果たして、3日後の3月7日に開幕したファーストステージを、レッズは12勝5分けの無敗で制している。ターニングポイントとなった魂の叫びを、阿部は照れながらこう振り返ったことがある。
「あそこでバラバラになるのが嫌だった。僕たちはプレーでしっかりと見せる責任があるし、サポーターも一緒に戦っているからああいう(ブーイングや厳しい言葉)が出たと思っていたので。サポーターには熱い思いを言ってもらえたし、僕たちの思いも伝えないといけなかった。いろいろとあったというか、コミュニケーションを取れたという点ではすごくよかったと思う」